2022 Fiscal Year Research-status Report
財務情報と非財務情報の構造と因果関係分析に基づく情報開示理論の拡張
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19K13860
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
本川 勝啓 学習院大学, 経済学部, 教授 (90780122)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | サステナビリティ情報開示 / 非財務情報 / 財務情報 / マテリアリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
企業のサステナビリティ情報開示における重要性の判断に関連した先行研究についてのレビューを実施している。財務情報開示における重要性の判断とサステナビリティ情報開示における重要性の判断に関しては前年度からの研究課題として検討を続けてきた。 一方で、2021年の国際的な基準設定主体である国際サステナビリティ基準審議会の発足や、これを受けて2022年に国内でのサステナビリティ基準委員会が発足したことにより当該開示を取り巻く制度環境は激変している。こうした制度や実務の変化は、基準設定の動向により強制開示になる情報と任意開示になる情報に変化をもたらすのみならず、重要性の判断そのものにも影響を与えるため、先行研究が前提とする制度環境や開示実務に関するデータの質を大きく変化させることが予想される。 非財務情報開示の分野で国際的に大きな変化が現在進行形で起こっている中で、日本や海外における企業の開示実務の観察や先行研究のレビューを引き続き粘り強く実施していくことは、改めて財務情報と非財務情報開示の構造や関連性の領域における重要な研究課題を洗い出す上で非常に重要なことだと認識している。特に、国際的な基準設定主体が、これまでの様々な法域や団体で設定されてきた基準・ガイドライン等をどのような論理に基づいて統合させていくのか、どのような分野の基準設定に優先的に取り組むのか(基準設定主体の重要性判断)、どのように設定した基準を実務に浸透させていくのかなどを注視しながら研究を進めていく考えである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画を立てた当初から想定以上に非財務情報開示に関する制度環境が激変し、企業の開示実務も大きな転換期を迎えている。こうした状況を鑑みると、当初の研究計画で想定していたデータや分析手法では研究内容と実務の乖離が大きくなり、その結果として特に実証研究における理論や実務への貢献が非常に限定的になってしまう虞がある。 本研究の貢献をより高めるために、改めて研究課題を洗い直し、分析の対象、内容、そして手法等を再検討する必要が出てきていると考えている。現状では研究計画を練り直している段階であるが、これまでのデータの蓄積や先行研究がすべて無駄になるほどの変更ではなく、これまでの議論も踏まえた新たな方向性を模索する形での変更を検討している。 制度の変更は社会科学ではしばしば発生する。こうした外部環境の変化に対しても柔軟に研究に反映させる対応を行うことで進捗の遅れを極力小さくできていると考えていることから、やや遅れているという評価になった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に大きな影響を与える国際的な制度の変化が現在進行形で発生している。これを受けて以下の3点を対応策として検討している。 まず、国際的な制度の変化はどのように変化するのかを最新の公表情報を確認しながら注視することが重要である。特に基準設定に関しては、デュー・プロセスを通じて成果物の公表が行われることからこれらの公表文書を理解する。また、国際的な基準をうけて、国内でも有価証券報告書等に反映されることが予想される。これらの国内外での制度変更内容を把握する。 次に、制度変更がこれまでの理論的な議論や実証的なデータに対してどのような影響を及ぼすのかを検討する。基準設定主体が、これまで議論されてきた対立する諸理論のどの理論に立脚するスタンスなのか、またそれはなぜかを検討することは意義深い。また、サステイナビリティ情報開示基準の設定により、データが充実する項目も増えることが予想される。こうした変化は新たな研究機会でもあるため、これまでのデータとの質的な変化も含めて積極的かつ慎重に検討する。 最後に、本研究で当初計画していた研究計画に最も関連性の高い実行可能な研究課題を洗い出し、深堀りしていく。私自身、当初計画していた研究の重要性は制度の変更後も色褪せておらず、計画の変更により一層貢献の高い研究になっていくと考えている。計画の変更も積極的な意味での変更であり、時間は多少長くなるものの問題ないと考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で海外学会での研究報告の機会が限定的であり、それに伴って旅費や論文の英文校正費の使用をひかえていたことが理由である。コロナ禍後の海外出張が解禁された年度に、旅費や英文校正費を繰り越してより有意義に使用する計画である。
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