2019 Fiscal Year Research-status Report
多文化社会の破局的状況と排除・差別の複合経験に関する調査研究―阪神から他地域へ
Project/Area Number |
19K13881
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
稲津 秀樹 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (10707516)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 多文化社会 / 破局的状況 / 排除・差別 / 複合経験 / 市民の創造性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究目的に関連する3冊の共著刊行と1回の国際学会報告を行うことができた。共著については、家中茂ほか編『[新版]地域政策入門―地域創造の時代に』(ミネルヴァ書房)には、「多文化・多民族社会の想像力」「マイノリティと法制度」「復興が生み出す社会問題」を寄稿した。他にも、ケイン樹里安ほか編『ふれる社会学』(北樹出版)では、「『魂』にふれる」を寄稿した、野田邦弘ほか編『アートがひらく地域のこれから―クリエイティビティを生かす社会へ』には(ミネルヴァ書房)「創造の実験場としての被災地―『ポスト震災20年』の神戸における開発主義の変容」を寄稿した。
これらから、現代社会における人間の「魂」の水準を問題化すると同時に、それが「多民族・多文化社会」化する状況において、どのような変容を経験しているのかを問いかけた。その上で、マジョリティとマイノリティという関係性をつくりだす権力と法制度(政策)によって、差別・排除が生じていく際の基本論理について考察した。これらの具体的な現れの一例として、阪神・淡路大震災の後の神戸を中心的な事例地とした「市民」の創造性を対象としながら、これが「復興」や「開発」をめぐる官僚的創造性とどのような関わり方をしているのかを経験的に検証した。
また、2019年7月に慶応義塾大学で開催されたカルチュラル・スタディーズ学会における”Dialogue with Ghassan Hage:On Alter-Politics: Critical Anthropology and The Radical Imagination”に出席した際のコメントと議論を通じて、今後の研究の方向性についても、有益な示唆を得ることができた。他にも、研究内容を踏まえた教育実践報告を所属学部紀要に2本投稿し、市民・住民向けのアウトリーチ講演も1回行った。以上が、本年度の研究実績概要となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「多文化社会化が進む地域社会におけるカタストロフィと排除・差別の複合経験とは、どのようなものであるか。そして、この経験を踏まえた上での多文化共生論の再構想はいかにして可能となるのか」という課題を掲げた本研究の含みこむ現場と経験は多岐に渡る。この問いに対して、上に挙げた研究内容は、主に理論的な解釈フレームを提供する意味で、初年度としては、おおむね順調な成果があったと考える。また、経験的な考察内容としても、これらの理論的課題が具体化する際のあらわれをひとつのモノグラフとして記述したことに、一定の価値があると考える。ただ、翻訳出版に関する国際シンポジウムは研究計画よりも早く開催できたものの、出版そのものが遅れており、この意味では、計画通りの進捗とはならなかった。以上を総合的に判断し、「(2)おおむね順調に進捗している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策を考える上での制約条件として、まず、新型コロナウィルスの社会的影響により、もとより予定していた国内比較と国際比較のフィールドワークに出ることの困難があげられる。このため、上にも記した翻訳出版を最優先しながら、調査報告書の刊行に向けた論文の執筆を進めることを中心に、次年度の研究計画を修正したい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、当初計画では、2019年度に刊行される予定であった阪神地域の調査モノグラフ(報告書)の編集と印刷の予定が遅れたためである。残額は同じく、この報告書の編集代と印刷代として繰越し、2020年度中に使用する予定である。
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