2021 Fiscal Year Research-status Report
多文化社会の破局的状況と排除・差別の複合経験に関する調査研究―阪神から他地域へ
Project/Area Number |
19K13881
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
稲津 秀樹 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (10707516)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 多文化社会 / 破局的状況 / 社会的排除・差別 / 複合経験 / カタストロフィ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究は、昨年度に新型コロナウイルスの流行を受けて、急遽変更された研究計画を、再度修正しなおし、本研究課題の追加リサーチとアウトプットに向けた準備を進めることが中心となった。その途上の研究成果として、これまでに刊行した2冊の共著(内1冊は共編著)を電子書籍として再発表するとともに、市民講座を通じたアウトリーチと新聞記事投稿を1件ずつ行い、オンライン学術シンポジウムに2回登壇した。 電子書籍として再発表した書籍は次の通り。『多元主義を理解するための30冊ー多様化する世界を読み解き、生き抜くために』(BAコンソーシアム・暮沢剛巳・清水知子編)、『社会的分断を越境するー他者と出会いなおす想像力』(塩原良和・稲津秀樹編)。 これらの研究成果を総括しながら、コロナ禍も含めた多文化社会の破局的状況における社会的分断のメカニズムと、これを生き抜くための越境する想像力の重要性を、市民講座(鳥取大学サイエンスアカデミー)と新聞記事投稿(日本海新聞)を通じて発表した。 さらにオンライン学術シンポジウムの場では、この想像力の根源的批判性とその条件を再考する機会を得た。日本大学文理学部主催のシンポジウムに登壇した際には、エスノメソドロジー学派に発する経験的社会学の仕事を確認しながら、「調査するわたし」も含めて存立している「日常性」を条件として、差別・排除への批判的想像力が喚起されることを議論した。次に、鳥取大学地域学部主催の地域学研究大会に登壇した際には、「当事者研究」のアプローチを参照しながら、差別・排除への応答責任を果たしていく当事者の想像力のあり方について議論した。 反省点としては、昨年度同様、研究計画の修正を余儀なくされ、出版予定が必ずしも計画通りにはならなかった点であるが、以上の議論を、準備中の書籍内容に積極的に盛り込むことが期待される。以上が、2021年度の研究実績概要となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
多文化社会化が進む地域社会におけるカタストロフィと排除・差別の複合経験とは、どのようなものであるか。そして、この経験を踏まえた上での多文化共生論の再構想はいかにして可能となるのか」という課題を掲げた本研究の含みこむ現場と経験は多岐に渡る。上の研究実績は、この問いに対する理論面と方法論的な検討を通じて、試論というかたちではあるが、本研究の一部を提示することができた。この点で、進捗はあったと言える。 しかしながら、昨年度と同様に、この理論と方法を裏付ける上で重要となる翻訳本の出版が遅れていること、ならびに一昨年度から目標として提出している都市モノグラフ(報告書)の刊行が、コロナ禍の影響を受け調査進捗の段階から厳しい状況にあり、計画通りの進捗とはならなかった。以上を総合的に判断し、「(3)やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策を考える上での制約条件として、昨年度と同様に、新型コロナウィルスの社会的影響の長期化に伴い、もとより予定していた国内比較と国際比較のフィールドワークを行うことの困難があげられる。このため、昨年同様、翻訳出版の研究を最優先としながら、調査報告書の刊行に向けた論文の執筆や、オンライン上の調査研究を進めることを中心に、次年度の研究計画を再修正したい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、科研費を用いた調査研究報告書の刊行予定が遅れているためである。この編集費用と印刷費用にあてる予算分のみ、持ち越されていることになる。この報告書は最終年度となる2022年度中の刊行を目指して、関係者と毎月のオンラインミーティングを行なっており、順当に使いきることを目指して鋭意、研究を進めている。
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