2019 Fiscal Year Research-status Report
被災地の復興と大量死の現場の再建に関する集合的記憶の研究
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19K13897
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
濱田 武士 関西学院大学, 社会(科)学研究科, 研究科研究員 (60814465)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 戦争被害への様々な対応 / 平和公園 / 戦跡保存 / 災害復興 / 平和推進活動 |
Outline of Annual Research Achievements |
戦争はもとより、地震や台風などの自然災害、そして疫病といった暴力は予測不能であり、甚大な被害をもたらす悲劇的な出来事が繰り返し生じている。 本研究の目的は、戦後70年以上におよぶ戦争被害への様々な対応のなかで、数多くの人々が犠牲になった場所を平和公園として再建するプロセスに着目することにより、現代社会の悲劇的な出来事への向き合い方を追求する試みにつなげることにある。その際の核心は、被害を負ったかどうかとは関係なく、意見や立場の異なる多様なアクターの合意や妥協によって集合的記憶が構築される点である。数多くの人々が犠牲になった場所に犠牲者を供養するための慰霊碑の設置や、悲劇的な出来事をつないでいくための資料館の建設など様々な取り組みがなされることにより、そのつど悲劇的な出来事に意味を付与する記憶の枠組みが構築される点に注目し、これまでの災害復興研究が見落としてきた社会の再生過程を展望する。2019年度の研究成果は大きく分けて3つである。 第一の成果は、社会学をはじめ人類学、民俗学、歴史学などの災害復興研究に関して集合的記憶の構築という観点から文献研究を行ったことである。 第二の成果は、沖縄での現地調査を実施し、沖縄県平和祈念資料館・沖縄平和祈念公園(糸満市)、南風原群壕20号・南風原文化センター(南風原町)、糸数アブチラガマ(南城市)、旧海軍司令部壕(豊見城市)を訪れ、それぞれの施設の建設経緯に関しての聞き取りとあわせ沖縄県立図書館と沖縄県公文書館における資料収集を行ったことである。 第三の成果は、広島での現地調査を実施し、広島市が行った平和推進活動に参加し、集合的記憶の構築後の取り組みという観点から検討を行ったことである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地調査を通じて、様々な資料の収集に加えて戦争の記憶の継承に関わる当事者の声を聞くことができた。沖縄県平和祈念資料館では学芸員と面談することができ、資料館の設立から現在に至るまでの経緯や時代背景との関連等について話を聞くことができた。南風原群壕近くの南風原文化センターでは学芸員と面談し、戦争の記憶をつないでいく様々な取り組みについてうかがうことができた。沖縄県庁では沖縄県平和祈念公園の管理を受け持つ課の担当者に建設の背景や今日に至るまでの整備や刷新の取り組みをうかがい資料の提供をうけた。この成果は長崎における現地調査を実施する際のポイントとして用いることができ、次年度以降の調査遂行に向けて展望が開けたからである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も研究計画書に記載した通り、各調査地における平和公園とその構成要素の建設プロセスについての資料収集とともに映画、アニメ、漫画、小説などの文化表象の調査研究をすすめることとする。各調査地における平和推進活動の展開をフォローアップするために、当初の計画には記載していなかったが、長崎、沖縄での聞き取り調査を追加することも今後の研究の視野に入れている。
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Causes of Carryover |
2019年度は長崎への現地調査を計画していたが、十分な準備を整えることができなかったため調査を実施しなかった。2020年度における長崎への現地調査では、2019年度計画していた平和公園の総合的な建設プロセスに関する資料収集を実施するが、これに加えて平和推進活動に関する聞き取り調査を計画している。その際、現地滞在期間を当初の計画より延長するか現地調査の回数を増やす必要がある。そのために2019年度の残額を充てる。 また2019年度は広島、長崎、沖縄の戦争被害に関する映画、アニメ、漫画、小説などの文化表象に関する研究を計画していたが、災害復興研究のレビューや沖縄の現地調査に時間を割いたために計画に着手することができなかった。2020年度にはこれに着手し、関係するDVD、文献資料を購入する。そのために2020年度に加えて2019年度の残額を充てる。
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