2022 Fiscal Year Research-status Report
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19K13910
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
古里 由香里 お茶の水女子大学, 教学IR・教育開発・学修支援センター, 特任講師 (20793095)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 幸福感格差 / 職業威信スコア / 相対的剥奪 / 自職卑下 / 労働格差 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,労働者の幸福感格差について,個々人の準拠集団である「職業」と他者との職業比較による「剥奪感」に着目し,複層的に検討することで,幸福感格差のメカニズムを明らかにすることである。 具体的には,競争社会下で社会や他者との比較をすることにより生じる,現状と理想,自己イメージと他者イメージなどの乖離を,調査と実験によって計量的に明らかにすることで,見えない社会格差の明示化を試みる。これは通常の労働研究で計量分析的なアプローチが困難だった特殊な調査対象者を,多様性を損なわずに得ることで包括的な分析することを目的とするものである。 さらに,この調査は合理的選択理論の実験デザインを応用し,相対的剥奪の質問紙実験を行うところにも特徴がある。これは,社会生活を営むなかで発生しうる相対的剥奪状況を調査シナリオとして設定し,その疑似的刺激に対し,どのような反応をするのかを測定することで,通常の質問紙への回答では得ることが難しいデータを得るものである。 当該年度においては,相対的剥奪に着目し,得られると想定したものに対して実際の差分についてどのように測定するかを議論し,学会発表を行った。これは通常差分を取るだけで縮約されていない情報を反映させた算出を可能にするかについての研究で,汎用範囲の広い知見となる。発表により得られたコメントで一定の成果を得た。 所属組織の異動の影響により,昨年に引き続き本年も調査の実施には至らなかったが,先行研究や資料の収集と分析手法のアップデートを行った。特に、近年注目される「サーベイ実験」は、本研究で予定していた質問紙実験に類する手法で、より有効であると考えられるため、これらの手法が多く使われる政治学などの研究レビューを行い、セミナーに参加して準備を進めた。これを踏まえ,次年度以降の研究計画に反映させるべく研究計画の見直しにも着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
所属組織の異動やそれに伴う業務の多忙化により,予定していた調査を行うことができず、研究遂行や研究費執行できなかった。ただし,学会発表や紀要論文などの形で現状できうる範囲での研究の進捗を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究が遅れているが,2波にわたって行うパネルのWEB調査の時期をさらに変更することで対応する。この調査は,本研究の独自性でもある設計となっており,wave1・2にわけて研究期間中の長期にわたって実施される。 当初2019・2020年実施予定だったWave1の調査・分析を,2023年度に行う。対象は就労が可能な18歳以上の男女で,調査対象者の基本情報や,心理変数,社会的状況などを詳細に得て,Wave2調査につながる基礎情報を固める。さらに,官庁統計データを用いたマクロ変数も組み合わせ,2022年を中心に分析を行う。 続いて,当初2021・2022年実施予定を同様に2年ずらし,2024年において,前年度までの結果を基にしたwave2のパネル調査を実施する。Wave2調査の目的は大きく二つある。パネル調査としてのデータの豊富さに加え,合理的選択理論の実験デザインを応用し,相対的剥奪の質問紙実験を行うことである。質問紙上で設計した,社会生活を営むなかで発生しうる相対的剥奪状況に対し,どのような反応をするのかを測定する。ここでは、サーベイ実験も応用し、どのような想定がどのような反応を引き出すのかを検討する。 この2波のパネル調査を行うことで,日常生活での実態を測るとともに,剥奪感が促進されるような状況想定の下,それぞれの準拠集団による効果を精査することが可能となる。 2024年では,すべてのデータが揃うため,各調査データを統合し,この数年間の変化も射程に含めて分析を行う。ただし労働環境など新型コロナウイルス感染症の影響で,社会が劇的に変化していることも十分考慮する必要がある。必要に応じて,状況の変化に柔軟に対応させた計画へと随時変更を行う。
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Causes of Carryover |
昨年度実施予定の調査を2022年度実施に延期したため。その分の予算を次年度使用額として計上し、調査を実施する予定である。そのために必要となるPCの購入など研究環境整備として,対面での学会参会費・渡航費も計上している。
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