2019 Fiscal Year Research-status Report
The global context of post-Fukushima activism: Exploring an 'embodied' political philosophy in the crisis of democracy
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19K13911
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
田村 あずみ 滋賀大学, 国際交流機構, 特任講師 (80781088)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 社会運動 / 原発 / 3.11 / 政治思想 / 身体性 / 情動 / プレカリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は本研究の初年度にあたる。国内外の調査に加え、次年度に刊行となる単著の執筆などの成果があった。具体的には下記の通りである。 (1)海外調査:民主主義の危機の現状や、それに対する研究者のアプローチを探るため、EU離脱問題に揺れる英国で、デモの参与観察と聞き取りを実施した。EU離脱についての意見、政治制度の問題、移民に対する見解などを調査した。また、これまでの政治学や社会学的アプローチに加え、今後より個人のナラティブに注目した調査を実施するため、社会人類学の国際学会に参加。研究者との意見交換を通じて、新たな認識論・方法論の知見を得た。 (2)国内聞き取り調査:2012年から13年に聞き取りを行なった東京の反原発デモ主催者8名の追跡調査に加えて、首相官邸前抗議の参与観察などを実施した。聞き取りでは、当時の振り返りや現状について確認し、当時の運動を通じて各自が得たものが、どう現在の行動に継承されているかを考察した。参加者たちは、原発事故で洗い出された現代社会の課題を見つめ、その後は安保法制に対する抗議活動や、反レイシズム運動に参加したり、海外のオルタナティブ・コミュニティや先住民との国際的連帯を深めるなどしており、次年度以降の本研究の展開に向けて、有益な示唆を得た。 (3)アウトプット:上記の追跡調査を含めた、2012年からの反原発運動の研究成果を一般書としてまとめた(2020年度に刊行)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画していたメキシコの海外調査を実施しなかった。理由は、計画段階で予定していなかった単著の出版が決定し、その執筆と、それに必要な国内追跡調査を優先させたためである。メキシコでの調査は、日本国内の研究協力者のほか、本研究の思想的枠組みを与えてくれた現地研究者と共同で実施する必要があり、その準備や調整に十分な時間を割けないと判断した。 その一方、筆者が博士研究を行なった地であり、EU離脱という重要な出来後を控えていた英国での現地調査を先に実施した。また国内追跡調査では、3・11後のデモ参加者たちの、その後の多岐にわたる活動が、すでに十分に国際的視野を含んでいることが分かり、今後の研究に向け意義ある調査となった。この調査についての報告は、2020年度後半を予定していたが、当該年度中に単著の執筆を進めたため、予定より早くアウトプットの機会を得た。 以上のように、計画変更に伴う遅れはあるものの、現状に即した成果は出せたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
延期したメキシコ調査を次年度に実施する予定だったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、現時点では見通しが立っていない。 一方、3.11後の反原発運動に関する一般書が刊行されるため、2020年度はこれをもとに、国内の活動家やデモ参加者たちと、(感染症禍も含めた)不安の中を生きる人々の連帯の新たな可能性について議論を行いたい。こうしたアウトリーチ活動と並行して、追跡調査をした人々の中から、特に国際的な連帯をすでに実践している人々の活動を、さらに深く調査することも考えている。 また海外で展開する運動の背後にある思想・哲学について、文献調査を通じて理解を深めるとともに、日本国内に住む海外研究者たちとの交流を深めたい。こうした研究者は3.11後の日本の社会運動と母国の社会運動を比較調査しており、彼らとの研究会などを通じて、運動のグローバルな連帯の可能性や、民主主義の危機における政治思想について検討してゆく。その上で、論文や学会発表などの成果報告を行う。
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Causes of Carryover |
関連するテーマの単著の出版が決まり、執筆を優先するため、研究協力者を同伴するメキシコ調査を延期したことが最大の理由である。代わりに、事前準備の負担が少なく、より時機に即していた英国での単独調査を先に実施した。また、同じ理由で国内聞き取り調査に重きを置くこととなり、文献調査を先送りした。このため書籍購入費は別の予算で間に合い、結果的に物品費を使用しなかった。 メキシコ調査は2020年度に実施予定だったが、新型コロナウィルス感染症の世界的拡大を受け、2021年度に再延期する可能性が高い。2020年度については、文献調査のための書籍購入費のほか、①アウトリーチ活動、②3.11後の社会運動の国内研究者、および国内在住の海外研究者との研究会、③国際的な連帯を実践する国内アクティビストへの聞き取り調査、などの国内旅費の使用を予定している。
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