2021 Fiscal Year Research-status Report
The global context of post-Fukushima activism: Exploring an 'embodied' political philosophy in the crisis of democracy
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19K13911
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
田村 あずみ 滋賀大学, 国際交流機構, 特任講師 (80781088)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 社会運動 / 原発 / 3.11 / 身体 / 情動 / プレカリティ / 責任 / 民主主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、引き続き新型コロナウイルス感染症の影響で海外調査はできなかったが、前年度までの研究のアウトプットに加え、国内の聞き取り調査を実施した。また昨年度の計画に従って文献調査を実施した。具体的な成果は下記のとおりである。 (1)首都圏の反原発運動の意義、示唆と課題の振り返り:2021年は東日本大震災から十年の節目の年であり、また筆者が2012年より参加者の聞き取り調査を行ってきた首相官邸前抗議も同年3月をもって活動を休止した。首都圏の反原発運動の意義、変容、またそれがどのように別の運動に受け継がれたか、今後どのように展開しうるか、また社会運動研究者はそれにどのようにかかわることが可能かについて再検討し、メディア等に発表した。 (2)福島の被災者・避難者らの聞き取り調査:震災10年目以降の日本社会を考えたときの懸念は、世間が原発事故を忘却することで事故の責任所在が曖昧になること、被災者・避難者への支援が狭まること、市民を置き去りにした復興計画が進むことなどだろう。被災者らの痛みを「外部」がいかに共有しうるか、原発事故や気候変動などに代表される、いわゆる「人新世」の危機の中で、他者や将来世代への責任を現行世代がどう引き受けられるか、福島の被災者や避難者に聞き取り調査しながら考察を進めた。 (3)文明論・責任概念に関する文献調査:原発事故後の社会運動は、その背後に文明論や科学論といった議論を含む。これに関して国内外の哲学思想の文献調査を進めた。とりわけマテリアル・フェミニズム思想や、マルチスピーシーズ人類学の文献を読み解くことで、「自己/他者」「主体/客体」「人間/非人間」などの二元論を克服し、人間中心主義を乗り越えつつも、複雑に絡まりあった世界における「人間の責任」を見据える政治思想の可能性を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延に伴い、海外調査が困難となり、前年度に研究アプローチを再考したことが原因である。当該年度は新たなアプローチに基づき国内の聞き取り調査を実施して、貴重な成果があったものの、調査や研究成果の発表時期などは、依然として当初計画より遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き国内調査を中心に、積極的に社会に発信を行なっている福島の被災者・避難者への聞き取り調査を実施することで、作られた分断を私たちがいかに乗り越えることができるかを考えたい。 さらに、このような災厄後の市民の実践をケーススタディとして、人新世における人間の責任や倫理に関する示唆を検討したい。具体的にはマテリアル・フェミニズムやマルチスピーシーズ人類学を思想的な枠組として用い、学会報告や国外向けの英語論文で発表を行う。それによって、現在は欧米の研究者の理論が中心となっている同分野に、日本から新たな視座を加え、本研究の成果としたい。
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Causes of Carryover |
引き続き、新型コロナウイルス感染症の蔓延を受けて海外調査を実施できず、国内調査のみを行なっていることから、差額の予算が未使用のままである。物品費については、書籍購入に別の研究費を使用したことで、予定より使用額が少なくなった。
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