2021 Fiscal Year Research-status Report
「ひきこもり支援」をめぐる包摂と排除の社会学――〈新しい生き方〉に着目して
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19K13917
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Research Institution | University of Nagasaki |
Principal Investigator |
伊藤 康貴 長崎県立大学, 地域創造学部, 講師 (10828437)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ひきこもり / 引きこもり / 当事者活動 / 当事者研究 / 生きづらさ / 社会運動 / 8050問題 / 新しい生き方 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨今、40代や50代といった「ひきこもり」当事者の長期化・高年齢化が社会問題化し、彼らの生活を保障している親たちも70代や80代に突入し高齢化が進んでいる(8050問題)。本研究では、就労支援を中心とした従来の支援に包摂されなかった「ひきこもり」当事者に対して中心的にアプローチすることを通じて、①就労以外におけるニーズや「生きづらさ」を把握し、今後の社会的包摂のあり方を検討する。また同時に、②彼らの〈生き方〉を丁寧に捉えることを通じて、「就労」だけに限定されない、今後の日本社会における〈新しい生き方〉のあり方を当事者の日常的実践から考察していく。そのことを通じて、「ひきこもり」に関する支援や若者支援等に対する新たな支援アプローチや認識枠組みを提供すると同時に、後期近代社会における、社会的に不利な状況に置かれた人々に対する包摂と排除の力学を明らかにしていく。 2021年度においては、前年度に引き続き新型コロナウイルス感染症の流行による緊急事態宣言やまん延防止等重点措置等が発出されたため、「ひきこもり」関係の居場所や支援機関の休止が相次いだ。したがって、支援者や当事者に対するインタビュー調査の一部をZoom等のオンラインで行うこととなった。また、活動再開後は積極的に現場に参与した。成果としては、長崎県立大学佐世保校学術研究会の出版助成を受けて、博士論文やこれまでの研究をまとめた単著『「ひきこもり当事者」の社会学――当事者研究×生きづらさ×当事者活動』を刊行(長崎県立大学佐世保校学術研究会版(非売品)と晃洋書房版(市販品)、内容は同一)した。あわせて、調査協力団体と協力したオンラインイベントや相談支援活動を行い、「ひきこもり」に関する啓発や支援活動を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、前年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症流行による緊急事態宣言発令やまん延防止等重点措置などにより、本研究の対象となる団体や個人への調査が大幅に制限されることとなった。一部のインタビュー調査はオンラインによって代替実施しているが、現地へのフィールドワークについては延期を余儀なくされた。秋ごろの感染者等が減少した時期には積極的に現場に対する参与観察を行ったが、本研究の計画当初ほどの実施には至っていない。対象者との信頼関係構築は、本研究遂行にあたって非常に重要なポイントであるため、オンラインによる代替実施を模索するにしても、より丁寧な調査の実施が求められる。 2年間にわたってコロナの状況が継続したことにより、新しい試みとして、オンラインを用いた居場所構築や当事者会・親の会等を実施することが多くなった。したがって、本研究においてもオンライン活動に対する調査を継続して実施していく。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の枠組みを維持しつつ、新型コロナウイルス流行に伴う遅延の取り戻し、およびオンラインによる調査を組み合わせつつ実施する。とくに今後は、オンラインによる当事者活動や支援活動にも注目し、その活動の持つ意義と可能性、限界を探る。これまでの調査においては、地方におけるオンラインの活動の可能性(遠隔地でも参加しやすい等)がみられた一方で、地方においては都市部よりもICTに関する意識や技術が浸透しておらず、オンラインの活動への切り替えが円滑に進まないなど、地域間格差や都市と地方の格差が鮮明となった。今後はこの点を意識しつつ、これまで得られたデータの整理・分析・考察等を行い、随時、単著や論文、学会発表等によってアウトプットを行っていく。
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Causes of Carryover |
2021年度は、前年度に引き続き、新型コロナウイルス流行による外出制限・自粛が継続し、参与観察や直接対面のインタビュー調査に大きな制限があった。本研究課題は、都市と地方の現場をフィールドワーク(インタビュー調査や参与観察等)することを主軸としていたが、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などにより、調査の実施が大幅に制限された。また実施できる環境であったとしても、フィールドワーク先(公民館等公共施設で実施されるもの含む)の休止やインタビュー対象者(直接対面に慎重な対応が必要な保健・福祉関係者含む)と直接会うことの回避から、オンラインによるインタビュー調査に限定されたため、都市部への旅費等を中心とする支出は当初計画よりも少ない状況にある。 今後は、ポスト・コロナ、ウィズ・コロナの状況下を鑑みつつ、集中的な調査を実施し、調査によって得られた結果をまとめ、学会発表や研究論文等として社会や学界に還元していくことを予定する。ただし状況次第では、やむを得ず「補助事業期間延長」の可能性も検討する。
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