2020 Fiscal Year Research-status Report
On the Alternative Disaster Reconstruction in Rural Reagions and Aged Society: With Reconsidering the Resilience
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19K13922
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
野坂 真 早稲田大学, 文学学術院, 講師(任期付) (10801798)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | コミュニティ / レジリエンス / ライフスタイル / 持続可能性 / 災害復興 / 東日本大震災 / 津波災害 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、既往災害に関する継続的な文献研究や調査対象地域に関する統計情報等の収集・分析を通じ、昨年度に提示した地方の地域社会がいかに被災し復興していくかを分析するための視点を洗練させた上で、事例分析を進めた。具体的には、次の4つの視点を提示した。第一に、災害復興を被災前および復興後も見据えた長期的な復興課題の変容と対応のサイクルとして捉える。第二に、マクロレベル(公共事業の遂行をともなうインフラの復旧や社会変動)とミクロレベル(被災当事者の生活持続性)との乖離を埋めるために、個人と社会との間のメゾレベルで起こる事象に注目する。第三に、「復興災害」を防ぐため、地域集団の活動やそれらの連帯によって具現化する場面が持つ複合的な機能を理解する。第四に、当該地域で成り立ちうるライフスタイル像を特徴づける行動や意識に影響を与える要素として、自己受容(=心の復興)も重視する必要がある。以上の4視点に立脚して、今年度までに実施してきた岩手県大槌町および宮城県気仙沼市の住民や地域集団のリーダーへのヒアリング調査、および両地域に関するドキュメント調査の結果を、両地域の傾向を比較しつつ分析した。その成果は、博士学位論文「地域社会における災害復興と地域存続に関する社会学的研究―東日本大震災前後における岩手県・宮城県の津波被災地域を事例として―」(早稲田大学文学研究科、2021年2月学位授与)にまとめた。また、新型コロナウィルスの感染症対策として、ヒアリング調査として実施する予定だった調査の一部を質問紙調査に切り替えて実施した。具体的には、2020年8月に、東日本大震災を機に岩手県内陸市町村へ移住した元沿岸市町村住民(有効回収数288名・回収率31.8%のうち38.0%が釜石・大槌地域の元住民)への調査を実施した。質問紙調査の調査結果は現在分析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた2020年度における研究スケジュールは、①文献調査と統計情報の収集・整理を継続。②住民層レベルの分析のため現地調査の実施。比較的若年の層(50歳代以下)に聞き取り。③中間成果を全国レベルの国内学会で発表、であった。このうち、①および③は順調に実施できているが、②は新型コロナウィルスの感染症拡大に伴い計画が変更された。 ①に関しては、雲仙普賢岳噴火災害、阪神淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災などに関する先行研究を調べると同時に、岩手県大槌町および宮城県気仙沼市に関する人口統計や産業統計を、国勢調査、経済センサス、東北農林水産統計、住民基本台帳などから収集・整理した。それらを基に研究実績の概要にて述べた地方の地域社会がいかに被災し復興していくかを分析するための4つの視点を洗練させた上で、事例分析を行った。 ②に関しては、代替手段として、ヒアリング調査として実施する予定だった調査の一部を質問紙調査に切り替える、オンラインツールを使用できる住民にはオンラインでのヒアリング調査(のべ10名)を行うなどの方法を取った。 ③に関しては、2020年8月に開催された地域社会学会、同年12月に開催された日本災害復興学会にて学会発表している。地域社会学会での報告内容は査読付論文として投稿し、2021年6月までに刊行される予定である。また、今年度までに実施してきた岩手県大槌町および宮城県気仙沼市の住民や地域集団のリーダーへのヒアリング調査の結果を、両地域の傾向を比較しつつ分析した。その成果は、博士学位論文「地域社会における災害復興と地域存続に関する社会学的研究―東日本大震災前後における岩手県・宮城県の津波被災地域を事例として―」(早稲田大学文学研究科、2021年2月学位授与)にまとめた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度における研究スケジュールは、①2か年の住民層ごとの調査結果を分析(必要に応じ現地での補足調査)、②地域集団のリーダーとサブリーダーへの調査を実施・分析、③中間成果を博士学位論文としてまとめる、④災害に関わる研究者や実務者を集めた研究会を実施し成果をブラッシュアップ、となっている。このうち③は、博士学位論文を執筆し提出したことで達成できている。 ①・②については、博士学位論文の研究成果を基に書籍として刊行することを予定しており、調査対象者への記述内容の最終確認を兼ねた追加調査として実施する。オンラインツールを使用できる対象者にはオンラインでのヒアリング調査、オンラインツールが使用できない対象者には書面もしくは電話で実施することを想定している。また、2020年度は一度も調査対象地域へ出張できていないため、この1年間での調査対象地域の視覚的な変化を記録したり、他の東日本大震災の津波被災地と比較したりできるよう、調査対象者との面談は極力行わない形での現地視察の実施も検討している。 ④は、所属する研究所や学会等にて研究報告を行ったり、調査対象地域で活動する支援団体向けに調査結果報告会を開催することで推進する。例えば、早稲田社会学会では2021年7月に東日本大震災10年に関わるシンポジウムで報告者として登壇する。調査結果報告会は、2021年8月に岩手県内で実施することを検討している。また、研究成果のブラッシュアップのために必要と考える先行研究も随時収集していく。例えば、研究者による書籍や論文(社会学に関連する分野を中心に)、各市町村や支援団体、地域集団による災害記録誌や活動記録誌、地元紙・地元誌をふくめた各新聞社や各出版社による特集記事や特集号等を想定している。 これらを通じ、東日本大震災の津波被災地域に関する事例分析を基に、社会学的な「復元=回復力」概念の彫琢を目指す。
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Causes of Carryover |
2020年度末までに新型コロナウィルスの感染拡大が収束することなく、2020年度は一度も調査対象地域への研究出張を行わなかったため、現地調査出張費を2021年度に繰り越している。2021年5月時点でも上記の懸念は継続しており現地調査出張は最低限に抑える必要があるため、使用用途としては、2021年度の現地調査出張費以外にも、これまでの調査結果を分析するために使用するPC等の機材や、研究成果をブラッシュアップするための参考文献等の購入費にも充てる。
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Research Products
(5 results)