2021 Fiscal Year Research-status Report
福島第一原子力発電所事故報道の言説構造と送り手の意識
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19K13928
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
矢内 真理子 同志社大学, 学習支援・教育開発センター, 助教 (10822760)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 言説分析 / 福島第一原子力発電所事故 / 報道 / メディア論 / 新聞 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度発表した研究業績は以下の通りである。 【査読論文】矢内真理子「署名記事からみる福島原発事故報道―『毎日新聞』を事例に―」『評論・社会科学』第138号、同志社大学社会学会、pp.63-83、2021年9月。 【口頭発表】矢内真理子「『いわき民報』の東日本大震災報道」日本マス・コミュニケーション学会2021年度春季大会、2021年6月5日、オンライン。 【口頭発表】矢内真理子「『福島民報』と『福島民友』の初期原発事故報道 ―通信社配信記事に着目して―」日本マス・コミュニケーション学会2021年度秋季大会、2021年11月6日、オンライン。 『毎日新聞』の論文では、2011年3月12日から18日の東京本社版・地方版(福島面)を対象に、原発から最も近い場所にいた福島県内の支局記者の記事がどれくらい紙面に掲載されたのかを検証した。その結果、原発は福島県にありながら、県の支局記者が現場で得られる事故の情報は極めて限定的だったと判明した。この点に原発事故報道の特異性を見出すことができ、記者活動を制約する構造的条件の一端を見出すことができると結論付けた。『いわき民報』『福島民報』『福島民友』の学会発表でも同様に、震災・津波報道、生活情報は独自の取材記事が多数掲載された。一方で原発事故報道の、特に事故の状況を報じる場合、地元メディアでも東京のメディアの配信を用いざるを得ないことが明らかとなった。 本研究に関連し『いわき民報』の2011年3月12日~31日と『福島民友』2011年3月12日~18日の記事目録を作成した。また7月20日に福島県からフリーアナウンサーの大和田新氏をお招きし、同志社大学で「東日本・津波・原発事故大震災から10年~伝えることの大切さ、伝わることの素晴らしさ~」をテーマに講演会を開催した。その後、大和田氏に10年間の福島県の復興、メディアの変容について聞き取りを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、2020年度に続き、新型コロナウイルス感染症のために緊急事態宣言・まん延防止等重点措置が出されるなどの状況が続いている社会的背景に加え、研究代表者の8週間の産後休業が発生し、大きく計画を変更せざるを得ない状況となった。そのため、2022年度への補助事業期間延長の申請を行い、承認された。 2021年度は、2020年度から準備していた『いわき民報』、『福島民友』『福島民報』に関する学会発表を行うことができた。報告時には、オーディエンスから示唆に富んだコメントや質問を複数もらうことができたため、論文にする際の参考としたい。また、『毎日新聞』に関する論文が出版され、一連の研究にかかわる一定の形を作ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
学会発表を行った先述の3つの媒体について論文化することに加え、さらに、昨年度の報告書にも記載し、計画していた『朝日新聞』『読売新聞』の事故当時の地方面・東京本社版を対象に、地方の支社による報道がどれくらい行われたのかを検証し、研究発表ができればと考えている。最終的には、ローカル紙、地方紙、全国紙の地方版、全国紙の4つの媒体における原発事故報道を比較できればと考えている。研究成果は、随時学会で報告するとともに、学会誌にも論文投稿する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症が収束せずに2年が経過し、当初予定していた2020・2021年度の出張ができなかったために、予算を繰り越さざるを得なくなった。2022年度は、資料の収集にかかわる費用(送料、手数料、印刷代など)、縮刷版などの購入費用が予定されている。ほかにも、2021年度に学会発表を行った『いわき民報』『福島民友』『福島民報』について、論文化する際に、社会状況が許せば、現地調査および聞き取り調査(『福島民友』、『福島民報』『いわき民報』の当時の記者)ができればと考えている。
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