2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K13938
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
廣野 俊輔 大分大学, 福祉健康科学部, 講師 (60626232)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 障害 / 福祉政策 / 分野別立法 |
Outline of Annual Research Achievements |
知的障害者福祉法に関連して、「なぜ知的障害者福祉法には知的障害者の定義がないのか]という問題意識から出発し、その歴史的背景を検討した。その結果は、2020年4月締め切りの学会誌に投稿中である。そのポイントを示しておきたい。 第1に知的障害者の福祉的課題は、戦前から関心を向けられてきたにもかかわらず、取りこぼされてきた。1949年に身体障害者福祉法が成立した際には知的障害者を対象に加えるべきとする議論もあった。しかし、予算的制約や、判定基準の不確立を理由に退けられた。さらに、1950年に精神衛生法が成立した際には、知的障害者は精神障害の1つとして対象化されることとなった。しかし、その理由は社会防衛的な観点から必要と考えられたのであり、なおかつ、自傷他害などの状況が認められなければ利用できなかった。実質的には行き場がなく精神科病院に入院するケースはあったが、法律上、知的障害者に特段の配慮がなかったことは明らかである。こうして、知的障害者とその家族は単独法を強く求めたのである。そして、知的障害児に福祉を提供していた児童福祉法は、18歳という年齢の上限を定めていた。年齢超過した児童を制度外で対応することは施設にとっての大きな負担となった。第2に知的障害者福祉法と関連する動きとして生活保護法の救護施設を成人知的障害者の受け皿とする発想もあった。しかし、成人になって施設の種別が変わるのを児童本人がいやがる、施設経営の観点からも合理的ではないといった理由からこの案も実現しなかった。第3に、知的障害者福祉法単独で成立させるうえでの困難について述べる。1960年にこの法律が成立するまでにはいくつものハードルがあった。1つは、伊勢湾台風である1959年に到来したこの台風を理由に、知的障害者福祉法は最小限の予算と規定で成立することになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の重要な作業は、東京都にある国立国会図書館等での資料収集である。きわめて順調に進み、その研究の成果の一端を学会誌に投稿することができた。ただし、2020年1月頃からは、新型コロナウイルスの影響を受けて、資料収集を事実上中止せざるを得なかった。そのためおおむね順調に進呈しているという評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、次なる課題として以下の2つのテーマに取り組んでいる。1つは、重症心身障害児の政策に関する歴史である。本研究の関心であるなぜ障害別の制度が形成されてきたのかを明らかにするために、重症心身障害児は1つの大きなポイントとなる。というのも、重症心身障害児もまたこれまで検討した知的障害者と同じく、さまざまな制度から排除されつつその歴史を歩んできたからである。一般的に明らかなように、身体障害者福祉法の施設には知的障害を理由に利用を断られる、知的障害者福祉法の施設からは、身体障害を理由に断られる。また、病院からは、当時、健康保険は治療できる見込みのある病気にしか使えないという理由で排除された。そうなると児童福祉法しかないのだが、18歳以上の人をどうするのかということが問題になり、児童に18歳以上の対象者を含めることには強い抵抗があった。かかる状況にあって、親を中心とする運動団体、障害児をもつ親として水上勉、それに共感した芸能人の働きかけもあって、児童福祉法の改正で18歳以上の利用が可能となった。この歴史はもう一度丁寧に検討する価値があると考えている。 もう1つは、重度精神薄弱児扶養手当である。一点目の関心ともつながるが、この手当の特徴は、施設に入っている本人の家族にしか給付されないという点である。創設当時、入所施設に入っている方が進んでいて、家族で知的障害児を由要している方が支援から漏れているという考え方の反映である。この制度も子細に検討したい。
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Causes of Carryover |
年度末にコロナウイルスが発生したことにより、その時期の資料収集が不可能となり、その分、必要な図書を購入するなどしたが、差が生じたため次年度使用額が生じた。次年度使用額については、次年度の資料収集のための旅費として活用する。具体的には、国会国立図書館等のコロナウイルスによる利用制限が解除された時点で資料収集を行う。
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