2020 Fiscal Year Research-status Report
犯罪からの離脱を支えるための地域を基盤としたソーシャルワーク実践に関する研究
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19K13943
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
掛川 直之 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (30825302)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 刑事司法と福祉 / 刑事司法ソーシャルワーク / 出所者支援 / 地域生活支援 / ソーシャルアクション / 犯罪からの離脱 / 地域を基盤としたソーシャルワーク / 地域共生社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は昨年度同様、参与観察先の大阪府地域生活定着支援センターにおいて、通算18件の受刑者/出所者の特別調整ケースを、通算3件の入口支援のケースを担当し(2018-2020年度の実績)、他の多くのケースに触れるなかで、福祉的支援を必要とする受刑者/出所者の特性について理解を深めることができている。とくに本年度は、情状証人としての出廷2件を体験する等、刑事司法福祉臨床の現場経験を積むことができた。 このような本年度の成果としては、著著2本、論文2本、報告書5本、講演等8本等を研究業績としてのこしている。 調査研究については、大阪府地域生活定着支援センターにおける定期的な参与観察をはじめ、刑務所出所当事者に対する聴き取り調査6本やソーシャルワーカーからの聴き取りを昨年度から引続いておこなってきた。また、前年度から継続しておこなっている名古屋市における連続学習会「ここがヘンだよ日本の矯正・保護:しゃば~ル2020」の企画・運営、「名古屋市再犯防止推進モデル事業」に対する外部評価委員会に参与するなどして、研究課題にかんするデータの収集や、その成果の還元にも努めてきた。 なお、本年度は、とりわけ、博士学位論文をベースに、本研究における成果を加味して出版した『犯罪からの社会復帰を問いなおす:地域共生社会におけるソーシャルワークのかたち』(旬報社)を出版できたことが、本研究目的の達成に向けても大きな成果といえる。コロナ禍による制約が続くとみられ不安要素はあるが、最終年度となる来年度で本研究の成果をまとめるために必要な素地は築けつつあるのではないかと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度、参与観察先の大阪府地域生活定着支援センターにおいて、通算18件の受刑者/出所者の特別調整ケースを、通算3件の入口支援のケースを担当し(2018-2020年度の実績)、また他の多くのケースに触れるなかで、福祉的支援を必要とする受刑者/出所者の特性について理解を深めることができている。その多くは、高齢、障害、生活困窮といった諸問題を重複してかかえており、本来は「自由」なはずの地域社会において「不自由」さを感じ、刑務所での生活に過剰に適用している様やそれぞれの生活史を聴取することができている。 このような本年度の研究の成果について、著著2本、論文2本、報告書5本、講演等8本等を研究業績としてのこしている。とりわけ、博士学位論文をベースに、本専門研究員プログラムにおける研究成果を加味して出版した『犯罪からの社会復帰を問いなおす:地域共生社会におけるソーシャルワークのかたち』(旬報社)は、本研究目的の達成に向けても大きな成果といえよう。 一方、毎年、報告をおこなってきた日本社会福祉学会の全国大会がコロナ禍にあって口頭報告が中止されるなど学会報告が滞ってはいる。だが、オンラインで実施される学会・研究会等でのできうる範囲での研究成果の発信をおこなっている。 調査研究については、大阪府地域生活定着支援センターにおける定期的な参与観察をはじめ、前々年度から継続しておこなっている名古屋市における連続学習会「ここがヘンだよ日本の矯正・保護:しゃば~ル2020」の企画・運営、「名古屋市再犯防止推進モデル事業」に対する外部評価委員会に参与するなどして、ひきつづき、研究課題にかんするデータの収集や、その成果の還元をおおむね順調におこなえている。
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Strategy for Future Research Activity |
犯罪歴を有する者のアイデンティティの転換プロセスとしては、衣食住の確保を必要条件に、エンパワーされる人間関係、スキルの開発や価値ある社会的役割、これまでの自分の人生の再文脈化が必要であるとされている。さまざまな情報を共有し、生活課題の解決に向けて人びととの対話を積み重ねていくことが、犯罪からの離脱につながっていくことになると考えられる。 一方、出所者の多くはかつての人間関係のなかに問題をかかえていることが多い。そのため、居場所を失い、自分を受け入れてくれる「不健全な」交友関係に逆戻りすることになる。出所者支援において社会的結束を促進するということは、具体的には出所者を受容し、理解してくれる社会資源を増やしていくことが不可欠だと考えられる。さらに、出所者じしんが地域の一員として地域に貢献する機会をつくりだすことも求められるだろう。出所者支援にかかわるソーシャルワーカーは、かれらが地域で生活するにあたり直面するさまざまな生活課題を主体的に解決できるようともに考え、必要な社会資源と結びつけエンパワメントしていかなければならない。 地域を基盤とした出所者支援に最低限必要な諸要素を上記のように仮定し、来年度は、①これまでおこなってきた参与観察のまとめ、②出所者支援にとりくむソーシャルワーカーに対するインタヴュー調査、③出所当事者に対するインタヴュー調査、④地域再犯防止推進モデル事業にかかる文献およびインタヴュー調査、といった調査研究をおこなうなかで、地域を基盤とした出所者支援のモデルを開発にひきつづきとりくんでいく。 ただし、本年度も、コロナ禍の影響により、予定していたイタリア調査をはじめ延期せざるをえない調査もいくつかあり、当初の計画どおりの研究が進められない可能性が高いため、他に代替できる方法を探りながら、その時点での最善の方法を目指していきたい。
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Causes of Carryover |
本年度は、コロナ禍にあり従前利用していた研究室が使えない状況に陥り、研究上知りえた機密情報を保護する環境確保に予算を費やすこととなった。他方、予定していた多くの出張が延期となり、若干のくりこし金が生じることとなった。 来年度は、研究上知りえた機密情報を保護できる個人研究室が与えられる環境が得られたため、その支出は抑制できるが、コロナ禍の状況に応じてその使途を、他に代替できる調査研究方法を検討しながら柔軟に使用していく必要があると考えている。
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