2020 Fiscal Year Research-status Report
ファミリーソーシャルワークにおける「子育て生活スキル伝承型」支援モデルの研究
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19K13987
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
西岡 弥生 日本女子大学, 人間社会学部, 研究員 (30829403)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 子育て生活スキル / 伝統技能伝承 / ケアリング関係 / 非威嚇的環境 / ゆるやかな教授 / 生成継承性 / 承認 / 自己肯定感 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、伝統技能伝承のあり方を、関連文献とフィールドワークの調査結果から検討し、「子育て生活スキル伝承型」支援の示唆を得た。なお、調査結果は、「伝統技能伝承のあり方にみる児童虐待防止対策におけるオルタナティヴな視点」と題し報告した。 関連文献からは、伝承-継承には①ケアリング関係の生成(生田1987)、②社会性並び主体性の育成と個性の引き出し、③システマティックでないゆるやかな教授による表現力の育成、④非威嚇的環境での創造的活動による自尊の修復(寺野2017)、⑤生成継承性の発達、の5つの機能があることが見出された。特に、①④は、生活経験の乏しさゆえに自己肯定感が低く、生きづらさを抱える母親を支える際に重要な視点といえる。関係者の【伝統技能伝承全般】に関する語りでは、①非威嚇的環境が継承者に居場所を提供し自己肯定感を高める、②日々の稽古で上達を承認され自己成長の機会を得る、③伝承者は伝承する技能を媒介に、価値や実践知を伝える、④継承は伝承者にとって受容体験になると同時に実践知を社会化する、⑤互いの価値を世代を超えて継承し次世代をケアする生成継承性を発達させる、⑥地域社会が見守るなかの稽古で継承者は成長を承認され、次世代の育成になる、の6つの機能が示された。また、【自身の実践活動】に関する語りでは、伝承者による①伝承-継承で経験した信頼関係から社会性を体得する、②稽古の遅れやつまづきを受け入れ、切り捨てず、周囲の理解を得ながら包摂的な場を形成し脱落や周縁化を防止する、③継承者の技能の上達や成長が承認され自己効力感を得る仕掛けを地域社会につくる、の3つの機能が示された。 母親支援には、①非威嚇的な環境でケアリング関係を形成し、②子育て生活スキルの習得を支え承認し、③規律性及び社会性の課題を受入れて周縁化による孤立を防止する、の3点が重要であることを知見として得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度の【①伝統技能伝承の実践現場】でのフィールドワーク並びインタビュー調査は、予定通り完了したが、2020年度はコロナ問題が発生したため、予定していた、【①伝統技能伝承の実践現場】のアンケート調査と、【②母親支援の実践現場】におけるフィールドワーク並びフォーカスインタビューは、実施できていない。 アンケート調査については、研究期間中に調査対象の団体の活動が再開した際に、実施する予定である。一方で、伝統技能伝承のあり方を検討し、付随する機能や効果を見出し、母親支援の示唆を得るための当該調査の代替として、2019年度のフィールドワークで収集した関係者の語りを分析対象にした調査結果をまとめ、研究報告を行った。 また、【①伝統技能伝承の実践現場】のインタビュー調査の分析結果をふまえながら、婦人保護事業関連の団体が主催するZoom会議に参加するなどして、現場の支援者と意見交換を行い、【②母親支援の実践現場】における調査活動を実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、【①伝統技能伝承の実践現場】実施したインタビュー調査のデータを分析し、2020年度の調査結果と併せて、母親支援並び保護者支援に援用の可能性を検討し、学会発表又は論文執筆を行う予定である。 【②母親支援の実践現場】でのフィールドワーク並びフォーカスインタビューは、コロナウイルス感染拡大の状況を見ながら、実施時期を検討したい。年度内の実施が難しい場合は、代替的に、個別のインタビュー調査の実施や、母子支援関係者のZoomでの研究会・勉強会等への参加によって、知見を得ることを予定している。 また、母親支援については、関連文献の検討を国内外の女性福祉の観点からも行い、「子育ての社会化」に向けた支援策を検討したい。
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Causes of Carryover |
2020年度に予定していた、母子支援現場におけるフィールドワーク並びフォーカスインタビュー調査を実施できなかったため、次年度使用額が生じた。調査にかかる費用として、旅費並び謝金や関連文献費等を、翌年度分として請求した助成金と合わせて使用する計画である。
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