2019 Fiscal Year Research-status Report
障害者政策のマネジメントの研究―EBPMと当事者参加の政策形成との両立―
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19K13997
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
北川 雄也 同志社大学, 政策学部, 助手 (00823022)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 障害者政策 / EBPM / 当事者参画 / 障害者権利条約 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、主に、障害者政策におけるEBPM(証拠にもとづく政策立案)の現状把握と、障害当事者団体等による政策分析活動の実態把握の作業を行った。 第一に、障害者政策におけるEBPMに関しては、とくに障害者雇用の分野を事例としてその現状を分析した。具体的には、障害者雇用に関する統計調査や政策評価(政策効果の把握)の内容を中心に分析した。その結果、日本では、政策効果の把握以前の段階である統計データの整備に重点が置かれており、障害者政策の分野では雇用分野で統計データ整備が進められている点が明らかとなった。しかし、障害者政策においては対象者の個別性の要素が強いため政策効果を正確に把握するための説明変数(性別、居住地域、家族状況など)の情報を多量に集める必要があり、障害者雇用に関する統計データの整備はいまだ不十分である点を示した。 第二に、障害当事者団体や日本弁護士連合会といった行政外部の主体による政策分析(パラレルレポート)の実態を明らかにした。パラレルレポートは、国連障害者権利条約において規定された活動で、政府の政策への批判的意見を国連に提出できるものである。しかし、その実態は、ニーズ発見や政策問題の発見といった部分では精緻な分析ができている一方で、政策効果の分析が不十分であることを指摘した。 そのほかに、障害者福祉サービス供給の市場化と多元化の功罪に関する分析を行い、供給主体のシステム変化に焦点をあてるだけでなく、障害者の権利保障のための障害当事者視点の政策立案に焦点をあてる必要があると指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の今年度の研究目標であった「定量・定性を問わず、そして日本の各府省の政策評価や統計調査だけでなく、自治体・シンクタンク・障害当事者団体等による調査活動の事例を収集し、EBPMの観点から機能を分析する」に関しては、おおむね達成できているため、現段階ではまずまず研究が進展していると評価できると考える。ただし、諸外国における障害者政策のEBPMの現状については十分に研究することができなかった。当事者参画の実態把握も含めて、次年度の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
内閣府の障害者政策委員会をはじめとした国レベルの審議会や地方自治体レベルでの外部有識者会議(たとえば、都道府県レベルの障害者差別解消推進委員会)等における当事者参画の現状を分析する。それぞれの政策形成への影響力について、参加する学識経験者や当事者団体にアンケート調査やインタビュー調査を実施して明らかにする。また、文献調査や在外での調査を通じ、米国・英国・北欧諸国における同種の機関と比較して教訓や課題を抽出する。当事者参画によってEBPMの機能が改善しているかどうかも明らかにする。具体的には、障害当事者が調査に参加することにより、政策効果分析の基盤となるデータの収集が容易かつ正確になっているか否かを調査する。 第二に、障害当事者の多様なニーズを政策形成に反映させるためには、当事者参画の体制のもとで、可能な限り政策効果に関する社会科学的に有意な証拠を集め一般市民にもその正当性を示すEBPMが重要である点を理論的に示す。そのうえで、これまでの研究成果をふまえてEBPMと当事者参画を両立させる最適なマネジメント体制を構築するためには、どのような方策が必要かつ実現可能であるかについて考察する。 なお、新型コロナウイルス感染拡大の状況をふまえると、在外での調査や政策担当者・当事者団体担当者へのインタビュー調査が困難になる可能性も想定される。その場合は、文献調査やWeb会議システムを利用したインタビュー調査など、代替的手段の活用によってできる限り研究目標を達成できるようにする。
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Causes of Carryover |
今年度は、学内業務などその他の業務や自身の健康状態の都合上、在外調査やインタビュー調査を実施することができず、旅費や人件費・謝金等は執行せず、図書購入費のみの執行となった。そのため、多額の次年度使用額が生じた。次年度は、図書購入費にくわえて、インタビュー調査等にかかる旅費および人件費・謝金を執行し、繰り越し分も含めて今年度より多くの予算を執行し研究成果に還元できるようにしたい。
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Research Products
(4 results)