2019 Fiscal Year Research-status Report
社会的養護施設における「家庭的養育」のあり方と職員の専門性の解明
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19K13998
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Research Institution | Osaka Shoin Women's University |
Principal Investigator |
奥井 菜穂子 (高橋) 大阪樟蔭女子大学, 児童教育学部, 講師 (90718298)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 社会的養護 / 家庭的養育 / 乳児院 / 子育て支援 / インタビュー / 質的研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,小規模ユニット化をすすめる社会的養護施設が,いかに家庭的な養育を実現していくのかについて,養育を担う職員の専門性と関連づけながら解明するものである。2019年度の成果は以下の三つの通りである。 (1)国内フィールドワーク:関西を中心として,小規模ユニット制に近年移行した社会的養護の施設においてフィールドワークを行った。具体的には,大阪府の乳児院での参与観察およびインタビュー調査を複数回行い,職員から小規模化に伴う実践の変化および子どもとの関係の変化についての具体的な語りを得た。 (2)海外フィールドワーク準備:日本の社会的養護,とりわけ小規模施設における家庭的養育および家族支援の指針となる海外の施策や実践を見出すため,資料収集と下準備を行った。具体的には,フランスにおける母子保健施設および子育て支援施設を視察するための関連施設への調査依頼と関連資料の収集である。(2020年3月に渡航予定であったが,COVID-19のため延期。) (3)成果発表:フィールドワークで得たデータをもとに,家庭的養育へと向かう乳児院の職員の実践を,個々のユニットにおける担当の子どもとの緊密な関わりを中心とする日々の養育(個別的養育)と,チームワークの中で役割を切り分けながら,その都度自分の分担を引き受けていく施設の一員としての実践(共同的養育)の双方から分析した。成果の一部を日本質的心理学会第16回大会において発表した。また,乳幼児期の代替養育に関する理論的基盤を整理するため,イギリスの精神分析家ウィニコットの母子関係の理論および代替養育の理論のレビューを行った。その成果は『子ども研究』に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は,乳児院の職員へのインタビューを行い,分析を進めると同時に,学会発表を着実に積み重ねた。特に,小規模ユニット制に移行した乳児院において,個別的な養育と共同的な養育がどのようなバランスのもとで実践されているのかを,職員の語りから明らかにした点は2019度の大きな成果である。その成果の一部を日本質的心理学会において発表し,今後の分析につながる着想を得ることができた。また,乳児院の養育を考察するにあたって,理論的視座としてウィニコットの母子関係の理論や代替養育の理論を整理した。その成果は『子ども研究』に掲載され,今後,乳幼児期の子どもと養育者の関わりを検討する上での理論的基盤となるものである。 それ以外に,施設職員と保育者養成校教員との共同研究を立ち上げ,施設職員の専門性に関する議論を開始するなど,社会的養護に関わる専門職のネットワークが広がりつつある。 2020年3月に予定していたフランスでのフィールドワークは,COVID-19の影響によって延期したものの,パリの子育て関連施設とはコンタクトを取り続けているため,調査計画は水面下で進みつつある。状況が改善され次第,フィールドワークを再開する予定である。当面は,これまでに実施済みの海外フィールドワークのデータをもとに,フランスの子育て支援および代替養育について研究を進めるため,計画に大幅な変更なく成果を積み上げることが可能であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きフィールドワークを進め,小規模ユニット制に移行した社会的養護施設において,家庭的養育を実践する職員の語りを収集するとともに,フランスの子育て支援施策および代替養育施策について考察し,日本の社会的養護の実践への視座を得る。具体的な方針は下記の通りである。 (1)国内フィールドワーク:先端的な取り組みを行う乳児院および児童養護施設において職員へのインタビュー調査を続ける。ただしインタビュー調査については,COVID-19の状況に鑑みながら柔軟に進める予定である。 (2)海外フィールドワーク:フランスを中心として,子育て支援に関する先端的な事例を調査する。具体的には,産前・産後の母子保健施設(PMI:Protection Maternelle et Infantile),子育て支援関連のアソシアシオン,社会的養護関連のアソシアシオンを訪問し,参与観察および職員への聞き取りを行い,近年の動向について知見を得る。 (3)成果発表:乳児院の職員へのインタビュー調査をもとに,小規模化を行った乳児院の養育を,「個別的養育」と「共同的養育」の双方の観点から分析し,その成果を論文として投稿する。また,乳幼児期の施設養育から児童養護施設や里親への移行支援についての分析を行い,論文投稿を行う。海外調査をもとに,フランスの産前・産後の母子保健の中心的役割を果たすPMIの役割について論文投稿を行う。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響により,2020年3月に実施予定だったフランスでのフィールドワークを延期した。そのため,海外旅費として使用予定だった費用を繰り越した。状況が改善され次第,フィールドワークを再計画・実施する予定である。
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