2020 Fiscal Year Research-status Report
社会的養護施設における「家庭的養育」のあり方と職員の専門性の解明
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19K13998
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Research Institution | Osaka Shoin Women's University |
Principal Investigator |
奥井 菜穂子 (高橋) 大阪樟蔭女子大学, 児童教育学部, 講師 (90718298)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 社会的養護 / 乳児院 / 施設保育士の専門性 / インタビュー / フランスの子育て支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、社会的養護の施設(特に乳児院および児童養護施設)におけるフィールドワークをもとに、近年特に目指される「家庭的養育」の具体的な実践を明らかにするとともに、それを担う職員の専門性を解明するものである。併せて、子育て支援の領域において先駆的な取り組みを行うフランスについて調査を行い、多様化する家族観と国際的な実践に照らした、日本の社会的養護の具体的な方策を提示することを目指している。2020年度の成果は主に以下の2点である。 (1)フランスにおける子育て支援の分析。当初、2020年度はフランスの子育て支援施設及び社会的養護施設におけるフィールドワークを実施する予定であったが、昨年度からCOVID-19の影響で海外渡航が難しい状況である。そのため、これまで収集したデータを整理し、フランスの子育て支援の地域拠点、PMI(母子保健センター:Protection Maternelle et Infantile)についての論文をまとめた。 (2)乳児院の職員へのインタビューデータの分析。近年多くの施設が家庭的な養育環境を目指し、大舎制から小規模グループホームへの建て替えやユニット制の導入を行っている。とりわけ乳児院においては養育体制の見直しが急速に進んでいる。本研究では、小規模ユニット制を開始した乳児院の職員へのインタビューから、職員と子どもの個別の関わりを軸に展開される個別的養育と、職員同士のチームワークによって展開される共同的養育がどのような関係構造の中で実践されているのかを明らかにした。さらに、乳児院の職員が、子どもの家庭復帰、あるいは児童養護施設への措置変更に際して、子どもの将来を見通す長期的な視点を持ち、退所後の発達を踏まえた養育を展望する様子を、乳児院の養育におけるパースペクティブの転換としてまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内・国外ともにフィールドワークが実施できない状況が続いている。そのため、新たなデータの収集は一旦ストップし、これまで収集してきたデータを新たな観点から整理することを目指して研究を継続した。その結果、フランスの子育て支援についての調査に関しては、フランスの母子保護システムであるPMIの役割について、(1)出産計画と性教育に関する分野、(2)妊産婦と6歳までの子どもへの相談援助、(3)保育サービスの統括の3つの分野からまとめた。国内調査についても、社会的養護の施設を訪れることが難しい状況が続いているが、2019年度に収集したデータの分析を進めることで、研究を滞りなく遂行している。乳児院の職員へのインタビューの分析から、職員と子どもの個別の関わりを軸に展開される個別的養育と、職員同士のチームワークによって展開される共同的養育がどのような関係構造の中で実践されているのかを明らかにした。さらに、職員が、子どもの家庭復帰、あるいは児童養護施設への措置変更に際して、子どもの将来を見通す長期的な視点を持ち、退所後の発達を踏まえた養育を展望する様子を、乳児院の養育におけるパースペクティブの転換としてまとめた。これらの観点を見出したことは大きな成果であり、フィールドワークを補完する文献調査も順調に遂行できている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、国内の児童養護施設での参与観察およびインタビュー調査の実施を計画しており、COVID-19の状況をみながら適宜遂行していく。またその成果を国内での学会で発表するとともに、論文化を進める。2020年度にまとめた乳児院の養育における「個別性」と「共同性」については、施設職員との議論を重ね精緻化し、単著としてまとめることを目標に下書きを進める。 海外フィールドワークについては実施が難しいと考えられるが、その分文献調査に切り替え、できる限り当初の目標の通り、多様な家族形態を許容してきたフランスにおける子育て支援施策の分析と、多様化する家族観と国際的な実践に照らした、日本の社会的養護の具体的な方策を提示することを目指す。 さらに、国内フィールドワークとフランスの子育て支援の分析の成果から、「家庭的養育」をなす実践の解明を行うとともに、「社会的養護施設における『家庭的養育』モデル」を構築することを目指す。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響により,2020年度に実施予定だったフランスでのフィールドワークを延期した。また国内フィールドワークや施設の視察も中止した。そのため,海外旅費および国内旅費として使用予定だった費用を繰り越した。 状況が改善され次第,フィールドワークを再計画・実施する予定である。
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