2021 Fiscal Year Research-status Report
社会的養護施設における「家庭的養育」のあり方と職員の専門性の解明
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19K13998
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Research Institution | Osaka Shoin Women's University |
Principal Investigator |
奥井 菜穂子 (高橋菜穂子) 大阪樟蔭女子大学, 児童教育学部, 准教授 (90718298)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 社会的養護 / 家庭的養育 / 児童養護施設 / 乳児院 / インタビュー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、社会的養護施設における「家庭的養育」について、それを実践する職員の専門性と関連づけながら解明するものである。2021年度の成果は以下の3つの通りである。 (1)国内フィールドワーク:昨年度実施した乳児院の職員へのインタビューの分析から、職員と子どもの個別の関わりを軸に展開される個別的養育と、職員同士のチームワークによって展開される共同的養育がどのような関係構造の中で実践されているのかを明らかにした。また、児童養護施設の職員へのインタビュー調査を複数回行い、COVID-19感染拡大下における施設養育について分析した。その結果、感染拡大時の養育の変化については、①子どもたちの日常生活の変化、②施設の実態に即した情報の少なさ、不確かさ、③一斉休校による影響、④大舎制、小規模グループホームそれぞれの対応、⑤保護者との面会・帰省の制限、⑥行事の中止・縮小、⑦子どもたちがもともと抱えていた課題の顕在化・深刻化の7つのカテゴリーに分類された。 (2)海外フィールドワーク準備:海外における社会的養護実践を視察し、日本の児童養護施設において「家庭的養護」に資する実践を見出すため、フランスにおける調査を準備した。ただし、2022年3月に渡航予定であったが、COVID-19のため延期した。2023年2~3月に再度実施予定である。 (3)成果発表:乳児院におけるインタビュー調査の成果は『福祉心理学研究』第18巻への論文掲載へと結実した。また、コロナ禍における児童養護施設の実践について、成果の一部を福祉心理学会第第19回大会の学会企画シンポジウム(招聘あり)にて発表した。家庭的養育及び子育て支援についての研究成果を教科書として刊行する準備も進んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内・国外ともにフィールドワークが困難な状況が続いている。そのため、国内フィールドワークについては、新たな観点として、「COVID-19感染拡大下における施設養育」を加え、COVID-19の感染状況が比較的落ち着いていた時期に集中的にインタビューを行った。その結果、感染拡大下における施設養育の変化と工夫について、7つのカテゴリーから分析するとともに、福祉及び心理学的な見地から、①子どもたちの日常と感染対策の両立への理論的整備、②職員のメンタルヘルスへの取り組み、③社会的な混乱の中でこそより一層社会的養護に関心を向けることの必要性という3つの観点から提言を行った。こうした新たな観点を加えることで、コロナ禍をきっかけに浮上した子どもたちの課題が、実はコロナ禍以前からずっと社会の中で見過ごされ、支援が届いてこなかった課題でもあることを確認され、改めて施設養育の理論的整備の必要性を示すことができた。以上の成果は論文投稿へと結実し、また同時に、研究成果の一部を教科書として刊行する準備も進んでおり、社会的養護に関する大学教育への還元も進みつつある。 ただし、海外フィールドワークについては2019年度から実施困難な状況が続いているため、この点については、文献調査を中心に行うなど、研究全体の軌道修正が必要である。次年度以降、海外フィールドワークについても実施を目指しつつ、これまで実施してきた文献調査についても分析を進めて行く。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きフィールドワークを進め、社会的養護施設における「家庭的養育」についての職員の語りを収集する。具体的な方針は下記の通りである。 (1)国内調査:全国的に先端的な取り組みを行う乳児院及び里親支援機関での調査を続ける。ただしインタビュー調査については、COVID-19の状況に鑑みながら柔軟に進める予定である。 (2)海外調査:フランスを中心として、子育て支援に関する先端的な事例を調査する。具体的には、周産期支援のサポート施設(PMI)および子育て関連アソシアシオンなどを訪れ、参与観察および職員への聞き取りを行い、近年の動向について知見を得る。 (3)成果発表:乳児院の職員への聞き取り調査から、乳幼児期の代替養育における移行支援について、および小規模乳児院における取り組みについて、それぞれ論文を投稿予定である。また、フランスの周産期における家族支援の実態についても論文を準備している。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響により、2021年度に実施予定だったフランスでのフィールドワークを見送った。また国内調査や施設の視察も中止した。そのため、海外旅費および国内旅費として使用予定だった費用を繰り越した。2022年度は状況が改善されつつあるため、一部のフィールドワークを再計画・実施する予定である。
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