2022 Fiscal Year Research-status Report
社会的養護施設における「家庭的養育」のあり方と職員の専門性の解明
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19K13998
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Research Institution | Osaka Shoin Women's University |
Principal Investigator |
奥井 菜穂子 (高橋菜穂子) 大阪樟蔭女子大学, 児童教育学部, 准教授 (90718298)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 社会的養護 / 社会的養育 / 家庭的養育 / 質的研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、社会的養護施設における「家庭的養育」について、職員の専門性と関連づけながら解明するものである。2022年度の成果は以下の3つの通りである。 (1)フィールドワークの実施:フランスにおける社会的養護及び子育て支援の実践を視察するための海外調査を実施した。芸術活動や子育て相談などの機能を備えた子育て支援カフェ、精神分析・心理学の専門家と連携しながら運営される地域の母子支援施設や、文化施設に併設されている居場所事業などを訪れ、職員へのインタビューによってその運営や制度に関して知見を得た。また、日本国内の先駆的事例についての調査をするため、西日本にある乳児院と、里親事業を行うNPO法人でのフィールドワークを実施し、職員へのインタビューを行った。 (2)社会的養護及び子育て支援の調査についての成果発表:フィールドワークで得たデータをもとに、社会的養護及び子育て支援の実践について分析を行い、それぞれ論文投稿を行う予定である。インタビューで明らかになったフランスの子育て支援の重要な理念として、養育者の社会的なつながりを創出し、孤立を未然に防いでいくと意味を持つ"socialisation"と"prevention"がある。それらの理念が意味する文化的背景や日本の子育て支援への示唆についての考察を「子ども研究」に投稿予定である。また、乳児院及び里親事業へのフィールドワークの成果として、特に乳幼児期における社会的養護の役割及び里親と乳児院の連携に向けた考察を「大阪樟蔭女子大学研究紀要」に投稿予定である。 (3)コロナ禍における社会的養護施設の実態調査の成果発表:昨年度実施した、コロナ禍の社会的養護施設が直面する課題についての施設職員へのインタビューの成果を「COVID-19 感染拡大下における施設養育と福祉心理学に求められる役割」としてまとめ、「福祉心理学研究」に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内・国外ともにフィールドワークが困難な状況が続いていたことから、2022年度末に科研費の補助事業期間の延長申請を行った。それにより、研究全体の計画の見直しを行うことができ、遅れていた国外フィールドワークを2022年度に実施し、2023年度に最終成果をまとめるという形で、現在研究は順調に進展している。2022年度からは多くの制限がなくなり、国外フィールドワークも実施することができた。国内外のフィールドワークの実施状況及びその成果については以下の通りである。 (1)国内フィールドワークの実施状況:西日本の乳児院及び里親事業を行うNPOへの視察と職員へのインタビューを実施し、乳児期における社会的養育について、これまで本研究で明らかにしてきた「個別性」と「共同性」という観点から分析を進めることができた。乳児院については一時保護の役割も担っているため、より緊急性の高い場面における実践についても示唆を得ることができた。またコロナ禍で需要が増しているショートステイについても、里親と施設の連携の観点から有益な示唆を得ることができた。 (2)国外フィールドワークの実施状況:フランスの子育て支援施設を視察し、職員へのインタビューを実施した。子ども食堂と子育て支援の役割を兼ね備えるカフェや、地域に開かれた子育て支援施設など、多彩な施設への視察から、日本の子育て支援に対する示唆を得ることができた。職員へのインタビューから子育て支援の役割として、"socialisation"、"prevention"が重要であることがわかった。 (3)以上の国内外のフィールドワークで得た知見について、2023年度に2本の論文に投稿し、本研究の最終成果をまとめるとともに、「社会的養護施設における『家庭的養育』モデル」として提言する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの国内外のフィールドワークから得た知見をもとに、「家庭的養育」を可能にする実践の解明を行うとともに、「社会的養護施設における『家庭的養育』モデル」を構築する。主な成果とその発表方法については以下の通りである。 (1)「個別性」と「共同性」の観点からの施設養育の分析:個別的な関わりを基盤とする乳幼児期の養育において、職員間のチームワークや里親支援者及び地域とのつながりといった共同的側面がより一層重要性を増すことが明らかになった。「個別性」と「共同性」がバランスよく展開されてこそ施設における「家庭的養育」が可能になると考えられる。またそれは施設養育に限らず里親養育においても同様であることが考えられる。こうした観点に基づき、今後の社会的養護施設における家庭的養育のあり方を考察し、「大阪樟蔭女子大学研究紀要」に投稿する。 (2)フランスの子育て支援とその基盤:フランスの子育て支援施設及び職員へのインタビューで明らかになったフランスの子育て支援の理念として特に"socialisation"と"prevention"が挙げられる。これらは、養育者の社会的なつながりを創出するとともに、孤立を未然に防いでいくと意味を持つ。これらの概念の意味を文化的背景を照らしながら明らかにするとともに、日本の子育て支援への示唆についての考察を「子ども研究」に投稿する。 (3)「社会的養護施設における『家庭的養育』モデル」の提言:これまでの成果をもとに、子どものニーズに寄り添った「家庭的養育」の具体的実践像を提示するとともに、「家庭的養育」の実践を可能にする専門的技法・知識及びその担い手である施設職員の意味づけ等を解明し、日本福祉心理学会、日本質的心理学会での成果発表を行う。
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Causes of Carryover |
COVID-19の感染拡大を受けて調査(インタビューや参与観察)を制限していたためである。2023年度は状況が改善されたため、調査を拡大する予定である。
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[Journal Article] 教職課程で求められる論理的な文章力 : 「アカデミック・スキルズB」の授業実践から2022
Author(s)
大杉稔, 濵谷佳奈, 田辺久信, 奥井菜穂子, 一柳康人, 上杉敏行, 神村朋佳, 佐橋由美, 中山美佐, 松川利広, 森繁男, 山本幸夫
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Journal Title
樟蔭教職研究
Volume: 6
Pages: 30-34