2020 Fiscal Year Research-status Report
肥満を形成する食行動・食嗜好におけるMeCP2遺伝子の役割
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19K14012
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Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
福原 正太 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任助教 (80817685)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | レット症候群 / 肥満 / MeCP2 / POMC / AgRP / Tyrosine hydroxylase / 視床下部 / 報酬系 |
Outline of Annual Research Achievements |
自閉症性発達障害児は過食や特有の食事嗜好性を認めることが多く、治療抵抗性の肥満を認めることがある。自閉症性発達障害をきたす疾患の一つとしてレット症候群が知られ、転写調節の中心的な役割を持つMethyl-CpG binding protein 2遺伝子(MECP2)の異常で発症する。レット症候群の軽症型が肥満を合併しやすいという報告があるが、その肥満形成メカニズムは未解明である。レット症候群における肥満形成メカニズムの解明のため、レット症候群のモデルマウスである雌性MeCP2ヘテロ欠損マウス(Mecp2+/-マウス)と野生型マウスに通常食または高脂肪食を摂餌させ、褐色脂肪の熱産生機構、視床下部の摂食調節機構、報酬系の食 行動の調節機構の変化について生理学的または分子生物学的に検討した。 高脂肪食の条件下でMecp2+/-マウスが過食による高度な肥満と耐糖能異常をきたすこと、Mecp2+/-マウスが高脂肪食に対する嗜好性が高いこと、高脂肪食は Mecp2+/-マウスの視床下部の摂食抑制系の障害とドーパミン報酬系における食行動調節の障害を惹起する可能性があることが解明された。また、Mecp2+/-マウス では視床下部や報酬系の機能異常の機序として、MeCP2が転写調節しているProopiomelanocortin(Pomc)、チロシン脱水素酵素(Tyrosine hydroxylase;TH)の発 現障害が関連していることが示唆された。Mecp2+/-マウスと野生型マウスで酸素消費量(VO2)や活動量に有意差は認められなかった。 本研究が中枢性の治療抵抗性肥満のモデルとして肥満研究における有効性が認められれば、ターゲットとなる分子標的に対する治療薬の開発に貢献することが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Mecp2+/-マウスと野生型マウスに通常食(ND)と高脂肪食(HFD)をそれぞれ12週間摂餌させ、経食事摂取量、体重の経過をモニタリングし腹腔内ブドウ糖負荷試験 (IPGTT)、インスリン負荷試験(ITT)、呼気ガス分析装置による酸素消費量(VO2)、活動量の測定と高脂肪食に対する嗜好性の評価のため食嗜好試験(CPPテスト)を 行った。 Mecp2+/-マウス+ND群では、WTマウス+ND群と比較して体重や臓器重量、摂餌量、IPGTT、ITTの結果や血糖、血漿インスリンについては差を認めなかったが、血漿レプチンの増加を認めた。また、VO2、活動量については差を認めなかった。腹側被蓋野におけるTh、Dat mRNA、側坐核における D1r、D2r、Darpp32 mRNAの低下を認めドパミン報酬系の機能異常が確認された。一方、Mecp2+/-マウス+HFD群は、WTマウス+HFD群と比較すると有意に摂餌量が増 加した。著明な体重増加、皮下・内臓白色脂肪量の増加が観察された。さらにIPGTT、ITTにて耐糖能障害、インスリン抵抗性の増悪を認め、血漿レプチンの有意な増加を認めた。VO2や活動量は両群で差がなかった。視床下部においてはAgrp mRNAの有意な増加、 Pomc mRNAの有意な低下を認めた。レプチンシグナルの下流にあるリン酸化STAT3の増加を認めたが、AgRPタンパクの発現増加、POMCタンパクの発現低下を認めた。腹側被蓋野においてTh mRNA、Dat mRNAの低下、側坐核においてD1r、D2r mRNAの低下、ドーパミンニューロン機能活性を反映するDarpp32 mRNAの顕著な低下を認めた。Mecp2+/-マウスはCPPテストにてHFDを強く嗜好した。各群で舌粘膜における脂質味覚膜受容体Cd36、Gpr120 mRNAの発現に有意差は認めなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、脳の視床下部で発現する摂食調節ペプチドであるAgRPやPOMC、BDNFなどの蛍光免疫染色を行い、視床下部における局在や発現量を検討する。MeCP2はターゲット遺伝子のメチル化を調節しているため、その評価法として視床下部におけるPOMC、BDNFのプロモーター領域や報酬系の腹側被蓋野におけるBDNF、TH、DAT、D1R、D2R、Darpp32のプロモーター領 域のメチル化パターンをバイサルファイトシークエンス法で検討する。 また、高脂肪食に対する嗜好性のさらなる解明のため、舌粘膜における甘み受容体(T1R2+T1R3)、旨味受容体(T1R1+T1R3)などの発現 についてもリアルタイムPCR法・ウェスタンブロット法で比較検討する予定である。
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