2020 Fiscal Year Research-status Report
においストレスのない生活空間創造のための消臭布の開発および機能の「見える化」
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19K14030
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
雨宮 敏子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 助教 (80750562)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 消臭布 / 見える化 / チオール / アンモニア / 酢酸 / 染料 / 銅 / 鉄 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,古来,色素の固着性向上や色相変化を目的として草木染などの天然染色において経験的に行われてきた金属処理の手法である媒染染色を応用し,主として遷移金属の酸化触媒作用を利用したチオールに対する除去機構を詳細に解明する.また,さらなる付加価値として,消臭前後で布色が変化する消臭布を開発し,消臭機能の可視化(見える化)を目指すものである. 2020年度は,前年度で検討した銅塩による成果をもとに,より毒性が低く安価である鉄塩を用いて調製した媒染染色布の消臭特性の追究を行った.鉄塩には硫酸鉄(III)を用いた.媒染浴のpHを高くして水酸化物が沈殿した状態で試料布を調製すると,チオール除去性が得られた.炎光光度検出ガスクロマトグラフ法で調べたところ,銅塩の場合と比較してチオールの酸化生成物であるジスルフィドの生成が少なく,布への吸着による除去が優位であることがわかった.布上の水酸化鉄(III)がチオール吸着サイトとなっていると考えられる.次に,湿度20%RHおよび50%RH雰囲気下で調湿した試料布を用いて,湿度による影響を調べたところ,低湿度の方が高い除去性を示した.吸着サイトに対して水とチオールとの競合が起こるためと考えられ,鉄塩で調製した場合は吸着によるチオール除去が主として行われることが支持された.この湿度に関する結果は,銅塩の場合と逆の傾向を示したことから,異なる金属種を用いることで広範囲の湿度条件に対応可能な消臭繊維の開発が可能となることがわかった. また,前年度の銅塩での検討を補足するものとして,タンパク質定量法の一つであるBCA法を応用し,チオールの酸化に伴う布上の銅の二価から一価への価数変化を可視化することに成功した.ガスクロマトグラフ法で既に確認できているチオールの酸化と合わせ,銅の還元を実験的に明らかにすることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度として計画していた通り,前年度で扱った銅塩よりも毒性が低く安価である鉄塩による処理を行った綿試料布を調製し,エタンチオールに対する消臭特性を調べることができた.しかしながら,新型コロナウイルス感染拡大に伴い,年度当初から約2か月間学内入構が原則禁止となり,その後も断続的に学内での研究活動が制限される事態となったこと,オンライン対応等で研究以外の業務が想定外に増加したことなどから,予定した実験量の確保が難しく,チオール以外の悪臭物質に対する検討など一部の課題については,やむを得ず次年度に持ち越すことになった.配分経費については,実験用の消耗品の使用が予定より少なく,さらに,所属学会のすべての年次大会や研究発表会の現地開催中止に伴い,旅費・交通費による支出が一切なかったことから,2020年度の残余分は繰り越し,次年度に有効に使用することとした. その一方で,銅塩が染料と配位的に結合あるいは繊維高分子のわずかなカルボキシ基にイオン的に結合していることに対し,高pH下で鉄塩による処理を行った場合は物理的な吸着により担持されていることが推察できたことや,銅塩と鉄塩ではチオール除去特性が異なること,系の湿度が消臭性に与える影響について,銅塩とは逆の傾向があることを見出したこと,さらに,チオール除去に伴う銅の還元を可視化することに成功し,チオール除去機構に対する詳細な解明が進んだことは,次年度に残した分を補い上回る,意義深い成果であったと考える. 以上から総合的に,おおむね順調な進捗状況であると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の3年目となる2021年度は,まずは,鉄塩処理布のアンモニアや酢酸に対する酸塩基中和による消臭などの検討事項を早急に進める.においの問題はその除去量のみではなく,除去速度も重要であるため,速度に着目した解析を行う.それと同時に,これまでに得た基礎的知見の発展的位置づけとして,消臭過程で布の色が変化するインジケーター機能をもつ消臭布の開発を行う.消臭前後での布色の評価は,積分球を備えた紫外可視分光光度計による表面反射スペクトルの測定およびカラーソフトウェアを用いたL*a*b*などの測色により行う.使用する染料構造や金属の担持形式,悪臭物質の種類などを検討し,高い消臭能をもつとともに,消臭による布色の変化が視覚的に十分認識できる調製条件を調べることで消臭機能の「見える化」の実現につなげ,最終的には,においストレスのない生活空間の創造へ寄与する. 2021年度も前年度に引き続き新型コロナウイルス感染対策のため,研究遂行上の様々な制限の継続が十分予測される状況である.実施可能な期間に集中して実験を進められるよう,早めに計画的に行うことを心掛けたい.また,実験室での研究活動が難しい時期が発生した場合は,関連文献の調査や論文執筆などに有効にあてることとし,時間的損失を最小限にとどめられるよう,リスク管理を徹底したい. 研究成果の公表については,学会発表3件,報文投稿1件以上を予定している.配分経費については適切に過不足なく使用する.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大に伴い,2020年度に参加を予定していた学会が,全て中止またはオンライン開催となり,旅費および交通費が全く発生しなかったことと,4~6月の学内への入構禁止およびその後の断続的な活動制限等のため,当初予定していた実験量を確保できなかった結果,消耗品の使用量が減少したことが,次年度使用額が生じた理由である.2021年度も少なくとも前期は旅費・交通費がかからないことが決定した.機器のメンテナンスを綿密にし,実験可能な期間を有効に活用できるよう作業計画をする予定である.
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Research Products
(4 results)