2019 Fiscal Year Research-status Report
食用キク科植物のカルシウムシグナル阻害作用に関与する成分の探索と機能性の解明
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19K14046
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Research Institution | Iwate Biotechnology Research Center |
Principal Investigator |
上杉 祥太 公益財団法人岩手生物工学研究センター, 生物資源研究部, 研究員 (30795901)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | キク科植物 / カルシウムシグナル / interleukin-2 / アレルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
キク科植物は、独自の分子骨格を持つ成分を生産することが知られ、特徴的な機能性成分の探索源として有望である。我々は、遺伝子変異酵母株を用いたスクリーニングにより、キク科山菜であるフキノトウとモミジガサに、アレルギーや2型糖尿病などに関わるカルシウムシグナル伝達阻害作用を見出した。山菜の機能性成分については、十分に研究が行われていない。そこで本研究では、活性物質を単離同定し、作用発現に関わる分子機構の詳細な解析と、食用キク科植物の多角的な比較解析を行い、機能性素材としての有用性を発掘・検証することを目的としている。本年度は、下記に示す結果を得た。 1.キク科植物に含まれるカルシウムシグナル伝達阻害物質の探索 遺伝子変異酵母株におけるカルシウムシグナル伝達阻害作用を指標として、フキノトウとモミジガサから活性物質の単離精製を行った。その結果として、フキノトウから1化合物、モミジガサから2化合物の計3化合物を単離し、遺伝子変異酵母株に対して目的の生育回復活性を示すことを確認した。各種機器分析による構造解析を行い、これらを同定した。 2.ヒト細胞株における活性物質の作用機序の解析 遺伝子変異酵母株に対する活性を指標として活性物質を単離したため、これらの化合物が哺乳動物細胞においてもカルシウムシグナルを阻害するかという点について検証を行った。ヒトT細胞株であるJurkat細胞を用い、アトピー性皮膚炎等のアレルギー反応に関わるinterleukin-2(IL-2)の遺伝子発現に対する抑制効果を解析した。その結果、特にフキノトウ由来の活性物質がIL-2の遺伝子発現を阻害することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、フキノトウとモミジガサからの活性物質の単離同定を主な実施項目とし、その作用解析とキク科植物の抽出物作成の一部を行う計画としていた。 まず、フキノトウとモミジガサの両方から、計3種の活性物質を単離同定したことから、主な目標を達成したと言える。また、培養細胞を用いた実験により、同定した化合物の作用を解析し、ヒト由来のJurkat細胞に対してinterleukin-2の遺伝子発現を抑制する化合物を見出した。さらに、キク科植物10種を収集し、抽出物の作成を終了した。これを用いて、次年度実施予定の成分と機能性の比較を行うことができる。以上より、本年度の研究は、概ね計画通りに進展しているものと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
十分な量の活性物質が単離できたため、今後は細胞レベルでの作用の解析を中心に実施する。まず、同定したIL-2遺伝子発現抑制物質について、ELISA法によりIL-2のタンパク質発現を抑制するか検証する。加えて、IL-2の発現制御を担う転写因子NFATの局在に及ぼす影響をwestern blottingにより解析する。また、一部の化合物が、2型糖尿病に関わるGSK-3βの酵素活性を阻害することが示されたため、H4IIE細胞を用いてGSK-3βの下流シグナルに対する阻害作用を検証する。 また、1年目に作成したキク科植物の抽出物を用いて、成分比較と機能性比較を行う。特に、活性物質として単離同定した化合物に着目してLC-MS分析を実施し、不明な点が多いこれらのキク科植物間における分布を調査する。また、IL-2発現抑制作用等の比較を行い、有望なカルシウムシグナル阻害作用を持つキク科植物を探索する。 以上の研究により、キク科植物の機能性活用に向けた情報基盤の整備に繋がることが期待できる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響により、参加予定であった学会(2020年度日本農芸化学会大会)が開催中止となり、旅費の使用がキャンセルとなったため(要旨集の発行をもって発表は成立した)。
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