2019 Fiscal Year Research-status Report
History of Phrenology in Modern Japanese Education
Project/Area Number |
19K14063
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Research Institution | Hyogo University of Teacher Education |
Principal Investigator |
平野 亮 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 准教授 (40636429)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 骨相学 / フレノロジー / 翻訳 / 近代化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は,本研究の内容面の基礎をなす部分の作業として,主に幕末開化期から大正期にかけての骨相学史料を調査し,検討した。 第一の成果は,近代日本における骨相学関連文献リストである。これまで報告者が蓄積してきたものをベースに,先行研究で指摘されてきた諸史料の情報を整理したものと,夏期と冬期に実施した国会図書館や古書店での調査の成果とを加え,作成した。当初は教育分野に殊更注目しながら史料収集に着手した経緯があったが,今回の調査により,心理学や医学等の専門科学から通俗文化まで実に広範多様な領域に骨相学が受容されていたことが判明した。先行研究で断片的・予見的に指摘されてきたことを,史料群によって初めて証拠立てることができた。 骨相学の広範な受容を例証する一つは,翻訳語の多さである。受容分野が異なれば西洋の用語の翻訳が変わることが予想されたため,続く作業として,収集した史料からPhrenologyの翻訳語を探索・抽出した。すると,「骨相学」のほかに,「相脳学」「察脳学」「生理心学」「性相学」など10以上の例が見出された。このことは,一方では骨相学がかつて日本で広範囲にわたる展開をみたことを示すが,同時に,遂にそれが体系的に安定して受容されるには至らなかったことも表しているだろう。 報告者は,それらの考察をはじめとした一年目の研究成果を報告するべく,2本の論考にまとめる計画を立てて,年度内にその第1報を発表することができた(「近代日本における骨相学のカルトグラフィー(1)」『兵庫教育大学研究紀要』第56巻,2020年2月,pp.1-11)。論文では,最初期の帝国図書館の蔵書リストから骨相学文献(原書,訳書,日本人の手になる書)を抽出して一覧表にしたり,福澤諭吉,南方熊楠,小林一三など各界の著名人たちによる骨相学への言及の歴史を明らかにするなどした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の進捗は,おおむね順調である。 計画書では,「本研究の議論の土台ともなり,それ自体文化史研究の成果となる,日本における骨相学の流入・受容・展開の概説史を描き出す」ことを最初の課題に挙げていた。これについては,「研究実績の概要」に前述の通り, 2本の論文での成果報告を計画し,年度内にその第1報を発表することができた(「近代日本における骨相学のカルトグラフィー(1)」『兵庫教育大学研究紀要』第56巻,2020年2月,pp.1-11)。 第2報についても現在執筆中であり,とくに,新型コロナウイルスの感染拡大にともなって,年度末には調査のための移動や図書館等での調査,資料の取り寄せがかなわなくなったが,2019年内に史料の収集が進んでいたため,論文作成の準備にとりかかることができた。第1報の内容や分析の不十分な点については,今後の研究の進展のなかで修正を加え,精度をあげていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題を推進させるにあたって,先ずは目下執筆中の第2報「近代日本における骨相学のカルトグラフィー(2)」を完成させる。これは,2019年度内に収集・分析した資料を用いることでおよそ可能である。 しかし,今後の研究計画については,当初内容にいくらかの変更を施していかねばなるまい。とくに2020年度は,英国での史料調査を計画していたが,猖獗をきわめる感染症の世界的蔓延により,実施は困難と考えている。そこで,まずは,図書館等の資料取り寄せなどのサービスが再開され次第,それで対応可能な調査に力点をずらしつつ,収集・読解を継続していくことになる。 研究計画書に記していた今後の2つの課題は,①京都商業学校校長にして骨相学者でもあった高橋邦三(1861-1913)の言説研究を足掛かりとした考察と,②文部省百科全書『教導説』(1873)の研究を軸とした考察である。①については,把握済みの未入手資料の収集・読解を進め,状況が許されるようになれば高橋の郷里である新潟県での文書等調査を実施したい。②については,原書のChambers’s Information for the People(1867年版)の分析において,関連資料の現地調査をしなければ解明できないと考えている諸点はあるが,それについてはひとまず措いておき,指示可能な資料の取り寄せと読解,また『教導説』の翻訳の再検討を進める。 以上の作業もやはり少なからぬ時間を要するものであり,むしろ先行してこれらに取り組むことは,やがて実施さるべき現地調査をもまた成果の実り大きいものにするだろう。
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