2020 Fiscal Year Research-status Report
上野英信の「筑豊文庫」と旧産炭地における教育・文化運動に関する歴史実証的研究
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19K14068
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
農中 至 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (50631892)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 上野英信 / 筑豊文庫 / 炭鉱 / 社会教育 / 鞍手町 / 地域文庫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は昨年度に引き続き、上野英信による「筑豊文庫」の活動に関する文献・資料調査を進めた。とりわけ、既刊の資料・図書などの記述をあらためて検証し、「筑豊文庫」の収蔵資料等に関する「施設機能」の把握を進めた。 1960年代の日本では地域文庫活動が盛んになる。これは上野による「筑豊文庫」の活動開始と同時期であり、地域文庫活動と「筑豊文庫」の形態や活動との類似性が指摘できる。しかしながら、昨年度から検討してきたように、上野による「筑豊文庫」は主流の地域文庫活動とはその性質を異にしている。 「筑豊文庫」では、書籍・資料などの文字資料にとどまらず、労働組合歌のレコード、ツルハシ、カンテラ、スラ、テボなどの炭坑用具のほか、絵画・版画・写真・絵馬なども保管されていた。また文字資料についても労働組合機関誌、ビラ、議案書などの資料も収集されており、地域住民とともに文庫活動を進める通常の地域文庫活動とは異なる側面を有していた。 この点を踏まえると、「筑豊文庫」は消えていく炭鉱と炭鉱に付随する記憶を継承し、産炭地という日常を絶えず再構成する役割をも有していたと考えられる。地域を記録する拠点として社会に位置付くことで、産炭地という地域社会そのものを対象化する機能があったのではないかという考えに現時点では到達している。 調査の現段階では、初年度から予定していた当時を知る住民や関係者へのヒアリング調査をほとんど実施できていない。関連情報の精査を進めつつ、ヒアリング調査の準備を引き続き進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、福岡県および九州全域での資料調査および関係者へのヒアリング調査がほとんど実施できていない。一次資料の調査をはじめ、当事者へのヒアリング調査は本研究の必須課題であるが、これまでほとんど満足に現地調査に臨めていない。しかしながら、既に収集済みの書籍・文献に基づく文献調査は進められていることから、当初予定していたオンラインツールを用いたヒアリング調査なども本格的に視野に入れ、次年度以降研究の遅れを取り戻していきたい。また、「筑豊文庫」および上野英信に関する当時の周辺的な情報・資料についても引き続き収集し、地理的には沖縄や南米、人物としては朝鮮半島出身者との関係なども視野に調査の幅を広げていく。十分なヒアリング調査の実施の目途が立たずとも、関連文献・資料の調査を進め、研究を進める。 当事者の高齢化や関係者の減少という事態を深刻に受け止めつつ、今後可能な範囲で工夫をしながら、引き続き調査・研究を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルスの感染拡大は予断を許さない状況にある。しかし、人との接触を最大限に抑制した一次資料調査は今後迅速に進めていきたい。どこにどのような「筑豊文庫」と上野英信に関連する地域資料があるのかに関して、この間(初年度・今年度)ほとんど把握できていない。この把握を十分に進めていく。また、これまで旧産炭地・筑豊地域の調査で一定の資料収蔵状況が判明している田川市立図書館での資料調査も進めていく。さらに、直方市立図書館の「筑豊文庫資料室」での調査をはじめ、筑豊地域全域の公共図書館、公民館図書室等の資料調査を進めていく。 なお、当事者へのヒアリング調査については、感染動向を見極めながら実施を検討してくこととしたい。
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Causes of Carryover |
今年度は調査対象地における資料調査およびヒアリング調査をいずれも実施できておらず、さらに県外における研究会への参加を自粛し、当初予定していた学会活動についてもオンラインに大会に変更になるなど、諸活動にかかる予算の執行が十分にできなかった。 これらの状況に対してオンラインでのヒアリング調査や研究発表を可能とするための設備整備を進めてきたことから、次年度以降も今年度不十分であった機器の整備および遠隔での調査方法論の検討をさらに進め、適切な予算執行に努めていく。
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Research Products
(2 results)