2021 Fiscal Year Research-status Report
上野英信の「筑豊文庫」と旧産炭地における教育・文化運動に関する歴史実証的研究
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19K14068
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
農中 至 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (50631892)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 上野英信 / 筑豊文庫 / 炭鉱 / 社会教育 / 鞍手町 / 地域文庫 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は新型コロナウィルス感染拡大傾向が継続したため、当初予定したフィールド調査を実施できなかった。 そうしたなか、以下の諸点について研究を進めた。 第一に、そもそも申請者がなぜ長年北部九州産炭地の戦後社会教育史研究を継続するのかについてまとめた論考を発表した。そこでは、子どもの学校外教育の研究から、地域の識字運動に関する研究を経由し、基礎自治体の社会教育体制整備への炭鉱産業の影響の検討を経て、民間有志による地域教育運動(上野英信による筑豊文庫のとりくみ)への注目に至った経緯について述べた。このことは、筑豊地域の戦後社会教育史理解のいわば枠組みを示す作業でもあり、現時点で注目しておくべき北部九州産炭地の戦後社会教育像について整理したものである。さらに、先行する戦後学校史研究に対して戦後社会教育史研究をどのように進めるべきかという課題に対する若干の問題提起もおこなった。 第二に、筑豊文庫を地域で運営するということについての吟味を昨年度に引き続きすすめ、研究発表をおこなった。そこでは「文化をつくる場」として筑豊文庫を捉えることの意味を考察し、地方知識人の活動として上野英信の実践を捉え返すといったアプローチが、他の地域の戦後社会教育史研究に対しても一定の有効性を有するのではないかという点を指摘した。 たとえ素朴ではあっても、実証研究を通した戦後社会教育史像の究明はいまだ必要であり、特に地方を対象に、地方知識人(地方知識層個人)の学習・文化運動への影響、地域社会への影響をみようとするようなアプローチ方法は、通例の社会教育史研究のアプローチ(社会教育行政史や公民館史)が通用しない地方において、一定の有効性を持ち得るのではないかという議論を展開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染拡大のためほとんど現地での聞き取り、資料調査を実施てきていない。次年度が最終年度となるためなんとか研究の遅れを取り戻し、特に現地調査および関係者へのヒアリング調査(対面)の実施を実現したい。 以上のような困難をはらみつつも、少なくない点も解明できつつある。 上野英信に関する既刊資料の分析に基づき、筑豊文庫とは直接的な関係を有しないものの、上野自身が個人的に地域青年団との関わりを有していたという事実がわかっている。特殊社会教育施設として鞍手町に記録された筑豊文庫が社会教育関係団体である地域青年団運動とどのような関わりを有していたのか、あるいは有していなかったのかという点は、炭鉱労働者として組織されない地域青年への上野英信の影響や筑豊文庫の地域受容の可能性を考えるうえで、これまで十分考慮していなかった点であり、最終年度に向けた重要な検討課題を発見するに至った。炭鉱産業の再編にともなって、地域青年団運動が衰退するという事実については、筑豊各地の自治体史が指摘することであるが、このような局面に対し、上野英信や筑豊文庫がどのようなアプローチをとり得ていたのかは、興味深い論点であり、今後の重要な研究課題となり得ると考えている。 現状、筑豊文庫の地域的影響、とりわけ地域社会教育組織・体制への影響関係については十分に見出すことができていない。感染症流行の合間を縫って、実施できていない現地調査を実現していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで新型コロナウィルス感染症拡大にともなって、現地での調査・研究活動をほとんど実施できていない。当初、遠隔によるヒアリング調査の実施も視野に入れてきたが、地域住民との関係構築など、不十分な点も多く、実行に移せていない。 このままの状況がつづくとなれば、当初の研究計画を十分に達成することは困難となるため、状況の改善に努めていきたい。 直接現地市町村に出向き、対面での調査が困難な場合は、福岡県内の関連公共施設での所蔵資料調査などに調査方法を改め、異なる研究視角からのアプローチも視野に、研究課題に取り組んでいきたい。 いずれにせよ研究課題の遂行のためには、現地調査が必須であることから、今後はなんとしても実行に移し、研究を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
予定していた時期に新型コロナウィルス感染拡大傾向がつづいたため、現地調査を実施できなかった。また旅費の使用を想定していた学会および研究会がすべてオンライン開催となったため、旅費の執行がまったくできなかった。 次年度もこうした事態が想定されるが、特に対面でのヒアリング調査が実施できない場合の遠隔調査への切り替えおよび、資料調査・収集方法の変更なども視野に、現地調査をともなわない、資料・文献収集の方法について模索していきたい。 なお、対面でのヒアリング調査の実施について、困難が予想される場合には、書面による調査をはじめ、調査方法を補う手法も視野に対応を進めていきたい。 ヒアリング調査はヒアリング対象者との十分な信頼関係の構築が必須条件であるが、この点を補う方法をいまのところ検討できていない。どのように先方の抵抗感の少ないヒアリング調査が可能となるかについても、調査手法の開発という点から前向きに検討していきたいと考える。
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Research Products
(2 results)