2020 Fiscal Year Research-status Report
「自律を目指す教育」に関する自然主義的研究―情動の合理性に着目して―
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19K14080
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
宮川 幸奈 熊本学園大学, 経済学部, 講師 (90806035)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 自律 / 教育 / 自然主義 / 情動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、教育哲学の重要な研究課題である「自律を目指す教育」の在り方に関して、自然主義的な探究(科学的知見や科学的方法を積極的に用いた哲学研究)によって新たな理解を得ようとするものである。情動の合理性に関する科学的研究を参照することによって、理性や思考と感性や情動を対比的にとらえた上で自律を前者に結びつけるという、教育哲学が長らく有してきた傾向を問い直し、「自律を目指す教育」の重層性の解明を進めていく。 2020年度は、主に情動の学習に関する諸研究を検討した。情動に関する諸研究の中では、人間において情動は学習されるものであるのかどうかが、一つの論点となってきた。情動のメカニズムとして進化的に獲得された身体的反応を重視する立場から、情動は学習されるものではなく生得的なものだという主張がなされてきた(生得主義)。これに対して、人間の情動の経験には個人差や文化差が大きいことを指摘し、情動が社会の中で学習されると主張する論者も多い(構成主義)。さらに、生得主義と構成主義の単純な対立を超えて、一定の生得的な条件の下で学習が生じるメカニズムを探ろうとする研究もある。それらの研究を収集し、内容を精査した。 また、当初の計画に加え、人文学・社会科学における近年の感情・情動研究の動向を探る作業に取り組んだ。例えば、歴史学の領域において、人々が有してきた感情について、その表出や認識のされ方の変遷を探究する研究(感情史研究)が、今日注目を集めている。感情史研究においては、感情・情動に関する(自然)科学的知見が積極的に参照されている一方で、その安易な援用を自己批判する動きもある(プランパー『感情史の始まり』みすず書房、2020年)。こうした動向を踏まえて、感情・情動に関する(自然)科学的知見を採り入れながら教育哲学研究を進めていくことの意味について改めて検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、計画に従って情動の学習に関する諸研究の検討を進めたが、それに関する研究発表には至っていない。 その一方で、計画に加えて感情史研究等の動向を探る作業に取り組み、感情・情動に関する(自然)科学的知見を採り入れながら教育哲学研究を進めていくことの意義や、そこで留意すべき点についての考察を深めることができた。これは、科学的探究を自らが行う哲学的探究と切り離してとらえる傾向が強い教育哲学領域に、自然主義的な方法を持ち込もうとしている本研究において、重要な作業であった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度である2021年度は、これまでの研究を踏まえて、情動の合理性という観点から「自律を目指す教育」をとらえ直していく。これまでの研究において、情動の合理性に関する科学的研究を参照することによって、教育目的としての自律に、情動的な側面が含み込まれていることを明らかにしてきた。これを受けて、自律の情動的な側面と理性的な側面が絡み合いながら実現されるメカニズムや、そこで教育者が果たしている役割について明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
少額の次年度使用額については、次年度の物品費として使用する。
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