2021 Fiscal Year Annual Research Report
「自律を目指す教育」に関する自然主義的研究―情動の合理性に着目して―
Project/Area Number |
19K14080
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
宮川 幸奈 熊本学園大学, 経済学部, 准教授 (90806035)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 自律 / 教育 / 自然主義 / 情動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、教育哲学の重要な研究課題である「自律を目指す教育」の在り方に関して、自然主義的な探究(科学的知見や科学的方法を積極的に用いた哲学研究)によって、とりわけ情動の合理性に関する科学的研究を参照することによって、新たな理解を得ようとするものである。 最終年度である2021年度は、これまでの研究の成果として、2019年度に提出した博士論文に基づく書籍『自律を目指す教育とは何か――自然主義的な教育哲学の試み』を出版した。本書では、自然主義の見地から、理性や意識と、感性・情動や無意識という一見対立する諸要素が、自律という教育目的の中で絡み合う様を描き出した。さらに、情動の合理性や、情動と認知の関係に関する諸議論を通して、理性と情動(感情)の分かちがたさと、理性と情動の区別と意識と無意識の区別の対応関係も揺らいでいることを確認した。出版にあたっては、2020・2021年度に行った研究を踏まえて、関係する諸研究に関する論述を追加することができた。 本書では、無意識的な感性・感情・情動が、従来の教育哲学研究において想定されていた以上に、教育目的としての自律に関わっていることを明らかにしてきた。人間諸科学において、現在、情動や感情に関する研究は大きな盛り上がりを見せており、情動のメカニズムやその発達、進化等についての知見は今後さらに積み重ねられていくことと思われる。特に、情動の発達に関する研究は、それを促す諸々のコミュニケーションについての理解も新たにするはずである。本書および本研究は、今後発展が見込まれる子どもと大人のコミュニケーションに関する科学的研究と、自律を目指す教育に関する(教育)哲学的研究とをつなぐ道を整備したという点において、教育哲学上の意義を有すると考える。
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