2020 Fiscal Year Research-status Report
カナダのLGBTQ教育政策に対する宗教的・道徳的不一致の調整可能性と課題の解明
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19K14104
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Research Institution | Surugadai University |
Principal Investigator |
鵜海 未祐子 駿河台大学, スポーツ科学部, 講師 (30802235)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 性の多様性 / GSAs / 保健体育 / 理にかなった不一致 / 宗教の自由 / 子どもの学習権 / 教育の政治哲学 / 宗教マイノリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施計画の2年目にあたる2020年度は、引き続き文献解読を中心に、事例研究と理論研究の2本立てアプローチをとった。具体的な研究内容・成果は、次の4点に分けられる。第1に、昨年度から引き継いだ研究の成果をカナダ教育学会誌の研究ノートとして発表した。2019年にアルバータ州で新たに政権を握った統一保守党のもと、学校教育における性的マイノリティの権利保障の位相や射程にやや後退的な変容が認められうる点に着目して、その動きが性的マイノリティ・マジョリティの児童・生徒に及ぼす影響について考察をすすめた。特に子どものGSAs参加を親に知らせない非通知条項の削除をめぐっては、あらためて性的マイノリティの児童・生徒に対する安全・安心な学校づくりの条件や、通知の判断主体とされる教師の専門職性について再検討を要する課題が確認された。第2に、同じく2018年に保守派政権が返り咲いたオンタリオ州を対象として、リベラルな前政権によって導入された、セクシュアリティの内容を積極的に盛り込んだ保健体育のカリキュラムに対して、どのような政策論議が展開され、いかなる修正が加えられたのか文献解読による再検討の作業をおこない、研究成果の発信準備をすすめた。第3に、金城学院大学キリスト教文化研究所主催のオンライン公開研究発表会のシンポジウムで報告をした。具体的には、カナダの宗教マイノリティであるフッタライトの学校教育の在り方に焦点を当てて、「宗教の自由」と「子どもの学習権」との調整をめぐる今日的位相に対して、性的マイノリティの児童・生徒の学習権保障を視野に入れる検討をすすめた。第4に、理論研究において、エイミー・ガットマンやロナルド・ドゥオーキンやマイケル・ウォルツァーなど、「教育の政治哲学」をめぐる議論を参照しながら、性的マイノリティの児童・生徒の権利保障をめぐる原理的・理論的な課題と可能性の解明をめざした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルスの世界的な感染拡大のなか、本年度も海外渡航による現地調査がかなわず、比較的に先行研究が多く文献収集がスムーズな、オンタリオ州やアルバータ州の事例に焦点化した研究に偏った向きがある。研究当初に予定していたマニトバ州やブリティッシュ・コロンビア州などカナダの他州の事例についても視野にいれて、原理的・理論的研究の裾野を広げる必要がある。加えて、性の多様性をめぐるカナダの教員養成の今日的状況についても、概括的な理解の範囲にあり、その意味で研究成果の公的な発信に向けて、より緻密な検討の作業が求められる。しかし、海外出張が出来ない分、本研究の目的である性をめぐる宗教的・道徳的不一致の調整可能性と課題を解明するにあたり、新たにカナダの宗教マイノリティの事例研究や、セクシュアリティをめぐる宗教的・道徳的不一致の調整可能性についての原理的・理論的研究を精力的に進めることができたため、総合的にはやや遅れているとの評価に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
ひきつづき、新型コロナウィルスの感染状況により、、研究計画の最終年度である2021年度も海外渡航を伴なう現地調査が難しいおそれがあり、それに伴って関連する研究計画・方法の変更可能性が見込まれる。その対応策としては、当初の研究目的の実現に適う範囲で、より十分な文献解読可能な研究対象を新たな視野に入れるとともに、出張予定先とのオンライン上の意見交換の機会を模索するなど、研究計画・方法の柔軟化を考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大の収束を視野に入れて、国内外の出張に関わる旅費や物品費などの使用を差し控えてたため、次年度使用額が生じた。次年度も出張や移動が難しい場合には、文献解読可能な研究対象分野の拡大も視野に入れて、図書費等の拡大に充てるなど、研究目的の推進最大化に向けた使用計画の柔軟化を図ることを考えている。
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Research Products
(2 results)