2021 Fiscal Year Research-status Report
カナダのLGBTQ教育政策に対する宗教的・道徳的不一致の調整可能性と課題の解明
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19K14104
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Research Institution | Surugadai University |
Principal Investigator |
鵜海 未祐子 駿河台大学, スポーツ科学部, 准教授 (30802235)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 宗教的・道徳的不一致の調整 / 民主教育論と熟議デモクラシー / 教育政策と現代の哲学 / 非理想理論 / エリザベス・アンダーソン / エイミー・ガットマン / プラグマティズム / 性の多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の研究実施計画の最終年度にあたる3年目の2021年度は、従前の研究成果をふまえて、理論と実践の往還的・架橋的な研究スタイルを採用した。とりわけ研究の全体目標である、教育の政策熟議に資する原理の導出や検討に向けて、性的多様性の教育政策や広くは公教育における「宗教的・道徳的不一致の調整可能性と課題」に関する原理的・理論的な究明にいっそう本腰を入れて研究を進めることとなった。 第1に、多文化主義カナダの宗教マイノリティであるフッタライトの学校教育は、歴史的には教育行政とのあいだで、「宗教の自由」と「学習権」の段階的で妥当な調整のうえに実現してきていることを、「相互性」原理の展開過程として意味づけ検討して論文発表に結んだ。 第2に、カナダのオンタリオ州において、近年に政策論争化した「性の多様性」項目を反映する必修科目「保健体育」をめぐる性教育の改革事例を参照しつつ、「宗教の自由」を理由とした履修免除の是非に関するエイミー・ガットマンの民主教育論について、政策思想の観点から再検討を加え、論文発表につなげた。 第1と第2から導出された共通の課題は、「子どもの最善の利益」に関する現実的で段階的な展開可能性の保障にとって、純然たる哲学的論拠ではなく、様々な関係主体間における権力の不均衡をふまえた、民主的な「相互性」論拠が必要とされる点である。 そのため第3に、「相互性」に依拠した政策思想として、ガットマンの民主教育論と熟議民主主義論の意義や、ポスト分析哲学としてプラグマティズムの要素を反映するエリザベス・アンダーソンの非理想理論の可能性について考究し、2つの学会発表にまとめた。 かくして研究の到達点は、関連する教育事例分析の一定なる蓄積をもとに、政策熟議としての相互性原理について理論的・構造的に解明する段階にある一方、課題点は教育的視点の導入や定位への挑戦にあることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の進捗状況としては、研究実績の概要にも述べたように、従前の北米における関連事例の整理や検討をふまえる中で、研究の全体目標である、教育政策に関する熟議に資する相互性原理の理論的・構造的な解明段階に到達中である。反面、人間形成にまつわる教育的視点の導入や位相の定位といった課題への挑戦も始めている。 本年度は、新型コロナウィルスの感染拡大の継続により、海外渡航を伴う現地調査の困難が見込まれたため、当初予定していたカナダ研究における事例検討対象の州の拡大については、文献解読やオンラインによる研究会を通じて進めることで、次年度以降の研究発表に備えることにした。 加えて、現地調査の不足を補うべく、原理的・理論的な文献解読の対象範囲を押し広げ、クィア理論をはじめとする政治・社会哲学における性的多様性の議論状況の現在までの到達点と課題を押さえることができた。 以上のことから、研究計画の実施方法の微修正を通じて、当初の研究課題の遂行範囲内にあると判断して、「おおむね順調に進展している」と前向きに評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
ひきつづき、教育政策の熟議に資する原理的・理論的な解明を中心的な研究課題に位置づけ、積極的な学会発表や論文発表などの研究公開につなげる。その際には、政治・社会哲学における政策思想や公共政策研究の素朴な援用に留まらないよう、人間形成をめぐる教育的な視点の導入や位相の定位に挑戦しながら教育政策研究の可能性を多面的に押し広げることとしたい。 コロナ禍において比較的に資料整理や文献解読の作業が大きな比重を占める場合においても、現在に定着化しつつあるオンライン形式もしくは制限付き対面式による学際的な公開シンポジウムや研究会など、国内外の研究交流の柔軟で多様な場に積極的に参加し意見交換を重ねるなどして、研究課題の成果発表に備える。
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Causes of Carryover |
コロナ感染拡大の継続により、2021年度に予定していた国内外の出張に関わる旅費等を次年度に繰り越すことにした。
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Research Products
(5 results)