2022 Fiscal Year Research-status Report
カナダのLGBTQ教育政策に対する宗教的・道徳的不一致の調整可能性と課題の解明
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19K14104
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Research Institution | Surugadai University |
Principal Investigator |
鵜海 未祐子 駿河台大学, スポーツ科学部, 准教授 (30802235)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 熟議デモクラシー / 相互性 / 生き方の様式デモクラシー / ジョン・デューイ / エイミー・ガットマン / 自己変容 / 他者性 / 教育と政治 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主な目的は、価値多様化社会の教育政策形成・決定にあたり、先鋭化する宗教的・道徳的不一致に対する熟議デモクラシーの妥当な調整原理の体系的な探究にある。新型コロナウィルス感染症の拡大を理由とした研究期間延長1年目の2022年度は、前年度の研究成果が示した課題として、政策熟議の「相互性」原理にどのような教育的視点を探究し導入しうるのかについて検討をすすめた。 第1に、カナダアルバータ州の「安全でインクルーシブな学校」法における「性の多様性」保障の論理について、政策価値としての「市民的平等」と「宗教の自由」の対立構図を下敷きとして、親の教育権における子どもの他者性・自己変容論の射程や、学校の表象機能の公正性といった教育学の観点から「相互性」をめぐる「性の多様性」保障論理の補強を試みた。第2に、エイミー・ガットマンによる「民主教育論の政治化」に、ジョン・デューイによる「生き方の様式」デモクラシーを再接続することを通して、質的・感情的・身体的な人間形成論との再接続をはかり、「民主教育論の教育性」を補強した。そこにおいて「相互性」は「受動性の中から生起する主体性」といった教育的作用を含みもつことが示唆された。第3に、デューイによる「生き方の様式」デモクラシーに、教育政策の民主的な意思決定や正統性の要素や条件としての「相互性」を捉えることによって、a)素朴な討議に終始するのではない科学的知性を備えた社会的探求のあり方や、b)民主的で継続的な態度として「他者理解・感受による自己変容」といった教育的位相を抽出した。第4に、ガットマンの「民主教育論」に多く影響を受けているメイラ・レヴィンソンによる現代「リベラリズムの教育論」(liberal education)は、「相互性」の契機として、自己統治による子どもの自律性の尊重を位置づけていることを試論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の進捗状況としては、宗教的・道徳的不一致の調整に資する政策熟議の原理的な探究において、「相互性」原理の教育的位相の解明に一定の進展が見られたと評価している。例えば、熟議デモクラシー論におけるデモクラティック・プラグマティズムと教育的要素との交錯に検討をすすめることができた。その背景には、当初に計画していた現地調査の不足を補うべく、熟議デモクラシー論や民主教育論の範囲を広げた文献解読に集中できた研究過程がある。 たしかに新型コロナウィルスの感染拡大の継続により、海外渡航を伴う現地調査が本年度も叶わず、事例研究の広域化は叶わなかった。しかしその点、上記のとおり研究計画の微修正や順序変更をおこないつつ、ハイブリッド型を含むオンラインの学会発表・研究交流や文献解読・論文執筆を精力的に進めた。 以上のことから、本研究を「おおむね順調に進展している」と前向きに評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
もし可能であれば、当初の計画の中心に軌道を戻し、海外渡航を伴う現地調査を再開することによって、事例研究の拡大や蓄積にとりくむ。ひきつづき、事例研究に基づき、教育政策形成・決定をめぐる熟議デモクラシーに資する原理的・理論的・社会的・政治的な解明作業を進める。加えて、幅広く柔軟なスタイルによる研究交流や意見交換を介して、学際的な視野を開き広げることによって、規範的仮説として効果検証を要する原理の洗練化に挑む。研究公開として、ひきつづき学会発表や論文投稿等を積極的におこなう。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の拡大により、2022年度に予定していた国内外の出張に関わる旅費等を次年度に繰り越すことにした。
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