2019 Fiscal Year Research-status Report
「反省的で生産的な批判的思考力」を育む国語科授業モデル構築のための実践的研究
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19K14208
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Research Institution | The University of Shimane |
Principal Investigator |
古賀 洋一 島根県立大学, 人間文化学部, 講師 (00805062)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 批判的思考 / 国語科授業 / 中学校 / 論理的文章 / 探究 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究目的の達成に向け、2019年度は2つの研究に取り組んだ。 1つ目は、反省的で生産的な批判的思考力が発揮された姿を論理的文章の読みに具体化し、その学習過程を解明したことである。この点については、古賀がこれまで公表してきた研究成果を通じて、基礎的な部分は明らかになっていた。2019年度は、それを更に精緻化すべく、「玄関扉」(三省堂中学1年)と「クジラの飲み水」(同中学1年)の授業から得られた学習者の記述・発話データを新たに分析した。中学校の論理的文章教材では、段階的な論証構造や、比喩などの修辞的表現を伴った論証が典型化してくると言われている。そうした論証の妥当性を学習者が吟味していく過程を授業レベルで明らかに出来たことが、今年度の一番の成果である。ここで得られた研究成果は、並行して執筆していた学術図書にフィードバックして出版するとともに、学術雑誌にも投稿を行った(現在印刷中)。 2つ目は、反省的で生産的な批判的思考力を育む国語科授業の構想過程の解明に、教師と学校司書との「協働」の観点から着手したことである。こうした研究に着手した理由は、文献調査を進める中で、反省的で生産的な批判的思考力は、多様な立場から書かれた文章を比較し、それらを踏まえて自らの考えを構築するような探究的な授業を通して育成されることが示唆されたからである。また、教科書外も含めた多様な文章を授業に持ち込むためには、司書との協働が有効であることが国内外で指摘されていたからである。以上の問題意識のもと、教師と司書との具体的な協働のあり様について、国語教育学と図書館情報学における先行研究の知見を整理している。同時に、協働的な授業づくりを長年実践してきた教師と司書を対象として、インタビュー調査を実施している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「おおむね順調に進展している」と判断した大きな理由は、年度計画に示した研究課題、すなわち「反省的で生産的な批判的思考力を論理的文章の読みの技能に具体化する」「具体化した技能の学習過程を解明する」という2点の研究課題について、実証的な知見を得ることが出来たからである。 国語教育学において、論理的文章の論証を学習者に吟味させるような授業の必要性は度々指摘されてきた。ただし、それらは文章中の論証を単独で取り出して論じられることが多く、段階的な論証や修辞を伴った論証の読みの過程については明らかにされてこなかった。こうした現状に対して、授業データを基にした実証的な知見を提供できた点は、2019年度の大きな成果である。 一方、国語科教師と学校司書による協働的な授業構想過程の解明は、当初の研究計画を修正し、前倒しで実施したものである。当初の計画では、「授業における教師の役割」を授業事中に限定して捉えていたが、事前の構想段階が重要であることが文献調査から見えてきた。また、多様な文章を用いる授業は国語教師一人では構想が難しく、資料のスペシャリストである学校司書の協力が欠かせないことも分かってきた。 そうした経緯もあって、当初想定していた「教師の役割」を事前の授業構想も含むものへと拡大し、さらには司書との協働という視角を加えることで研究課題を再構築した。調査を通して明らかにされる授業構想過程は、探究的な授業が各教科で求められている現在の学校教育において、授業づくりの方法に関する一つのモデルを提示するものになると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、インタビュー調査の継続とそこで得られた研究成果の発表、および批判的思考力を育む授業の開発と効果の検証を行う予定であった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、調査を中断せざるを得ない状況になっている。そのため、以下の計画で研究を進め、調査の再開に備える。 ①国語教師と司書との協働について更なる文献調査を進めるとともに、現時点で得られているデータを分析し、インタビューが円滑かつ迅速に再開できるよう備える。 ②授業開発に向けた基礎理論を得るために、論理的文章の読みの授業、とりわけ多様な立場の文章をもとに自らの考えを構築させる授業が持つ意義を明らかにする。その際、批判的思考力の育成という学力論的観点に留まらず、上記した授業の場が将来の市民生活におけるどのような場を模写したものと位置づけられるのかという、真正の学び論の観点を加味した検討を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2月から3月にかけて予定していた出張が取りやめとなったためである。中止となったシンポジウムや各種研究会については、次年度に改めて開催される予定であるため、そのおりの出張旅費として使用する。また、研究の進展に伴って図書館情報学関連の図書が新たに必要となったため、それらを購入するための物品費として使用する。
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