2020 Fiscal Year Research-status Report
開発途上国における教師の評価力に焦点を当てた数学科授業改善に関する研究
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19K14225
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
石井 洋 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (50734034)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 教師の評価力 / 授業改善 / パフォーマンス評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、大きく二つの方向性で研究を進めてきた。一つは国費教員研修留学生の数学教師との共同研究である。 インドネシア人留学生とは、読解力と問題解決力の向上を図る文章題について、授業の参与観察や質問紙調査等を通して検討した。我が国の教師は算数授業において読解力と問題解決力を高める必要があることを認識しており、毎授業で問題として文章題を設定し、ペアやグループでの交流を通して児童が学び合う時間を設けていた。そのため、問題解決力の向上を図る文章題をインドネシアでも取り入れていくことで授業改善に活かしていくことができると結論づけた。 ナミビア人留学生とは、我が国とナミビアの算数授業について、授業ビデオの分析とテスト結果を基に比較し、当該国の授業改善につなげる研究を行った。我が国の算数教育では、ヴィゴツキーの社会構成主義理論に基づく構造化された問題解決型アプローチが採用されている一方で、ナミビアでは、バンデューラの社会的・観察的学習理論に基づいたデモンストレーションが多く用いられていることが明らかとなった。我が国の算数教育の方法論は、学習者がより深い理解を示していることから、ナミビアの授業改善に活かしていくことができると結論づけた。 二つ目は、パフォーマンス評価の研究である。現行の算数教科書にはパフォーマンス課題がほとんどないため、教師が自作する必要性がある。本研究では、学生にパフォーマンス課題を作成させ,その結果を分析することで、今後の課題を考察することを目的とした。調査結果から、作成した多くのパフォーマンス課題が記述式での出題をしており、解答や解法の多様性を意識したり、日常事象の関連を図った真正性のある問題にしたりするなど、ある程度の理解が図られている点が確認された。一方で問題の学年、単元、内容の偏りや情報過多の問題設定の少なさ、態度に関する評価の少なさ等の課題が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
生徒の学習状況を反省的に捉えることによる授業改善の枠組みを構築するために、学習評価に関する基礎的な研究として、ペーパーテストの可能性と限界について研究し、その後、生徒の学習状況を的確に捉えるためのパフォーマンス課題の作成に関わる課題を考察した。解答や解法の多様性を意識したり、日常事象の関連を図った真正性のある問題にしたりするなど、ある程度容易に対応できる点がある一方で、問題の学年、単元、内容の偏りや情報過多の問題設定の少なさ、態度に関する評価の少なさ等の課題が明らかとなり、今後の質的改善の方向性を見出すことができた。 開発途上国の授業改善を図るための研修プログラムについては、インドネシア人留学生とナミビア人留学生の研究の関心から算数科の文章題や授業展開に焦点を当てて、我が国の現状を実証的に捉えることで、その検証を行うこととした。研究成果としては、我が国の問題解決力の向上を図る文章題の導入や構造化された問題解決型アプローチの採用がそれぞれの国の授業改善に活かしていくことができると結論づけた。 このように研究は何とか進めているものの、COVID-19の感染拡大により国内で調査をせざるを得ない状況下なので、当初予定していた研究内容の方向性からは若干ずれている点は否めないのが現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定では、今後教師の評価力を向上させるための研修プログラムを開発途上国(ザンビア及びサモア)の調査校において実施する予定であった。しかしながら、COVID-19の感染拡大により渡航の自粛が求められ、国内で調査をせざるを得ない状況となっている。幸い、昨年は研究室にインドネシア人とナミビア人数学教師が国費教員研修留学生として派遣されてきたので、彼らに調査協力を依頼し、本研究を継続してきた。今年度もフィリピン人とブータン人、フィジー人数学教師が国費教員研修留学生として派遣されてきたので、彼らに調査協力を依頼し、本研究を継続していきたいと考えている。そして、渡航可能な時期が来た際には再度調査計画を立て現地にてフィールドワークを行う予定である。最終的には授業改善の枠組みと評価力向上プログラムを関連付けながら、今後の開発途上国における授業改善の方向性について考察することを目指していく。
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Causes of Carryover |
旅費については、海外渡航が行えない状況になったため、キャンセルすることとなった。次年度以降に可能であれば学会の参加や調査での渡航を行う予定である。
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[Book] 国際地域研究Ⅲ2021
Author(s)
北海道教育大学函館校 国際地域研究編集委員会
Total Pages
264
Publisher
大学教育出版
ISBN
978-4-86692-110-5