2022 Fiscal Year Annual Research Report
伝統的なものづくりと新しい文化的アイデンティティに関する研究
Project/Area Number |
19K14230
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
佐藤 真帆 千葉大学, 教育学部, 准教授 (30710298)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 伝統 / 文化 / 美術 / アイデンティティ / カリキュラム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,伝統工芸の学習を通して文化的資質能力を育てる美術教育の理論と実践の構築を目的とする。2022年度は,中学校で伝統工芸の授業の参与観察とこれまで収集したデータの統合及び考察を実施した。 調査全体からは,固定的な文化や伝統の捉え方では,文化理解を目的とする伝統工芸の授業の実施は難しいことがわかった。また,美術教師らは異文化間理解や場所を基盤にしたオルタナティブなアプローチを模索していた。生徒は日本の美術文化や伝統工芸に関心を持っており,それらの現代的課題についても関心があった。先行研究を基にデザインした授業は,生徒が伝統文化と自分自身を関連させて考えられるようにデザインを重視し,教師が伝統工芸の背景について丁寧に紹介する構成だった。参加した生徒は熱心に取り組んでいたが,社会文化的な課題まで踏み込む指導の必要性を確認した。最終年度には,これまでの課題を踏まえ,創造性と伝統技術の指導のバランス,伝統工芸の社会文化的な課題について生徒の主体的な学びを促すよう考慮して授業設計し,研究者自身が中学校で授業を実施した。美術科の授業において批評的思考を促すようなアプローチを取り入れる必要があることを確認した。 本研究では,教育政策における生徒のアイデンティティの問題,批評的思考について十分検討できたとは言えないが,ポストモダン美術教育のアプローチや脱植民地化の美術教育の議論からは,研究方法におけるreflexivity(再帰性)の重要性の確認など,文化の学習の複雑な課題に取り組むための重要な視点を得ることができた。美術科の特徴を活かした工房ベースの学習活動は,多様な社会文化的背景を持つそれぞれの生徒にとって,意味のある学習の生成を促す。持続可能な社会の創造という点においても文化遺産教育の役割は大きく,文化的視点を持った美術科の学習をデザインし実践できる教師教育が今後の課題である。
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