2019 Fiscal Year Research-status Report
the development of teaching unit for group improvisation to encourage subjective/intersubjective value judgement in music
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19K14237
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
長谷川 諒 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 特命講師 (30817250)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 主観的(間主観的)価値判断 / 音楽教育学 / 即興演奏 / サウンドペインティング |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの予備調査では,サウンドペインティングが「主観的(間主観的)価値判断」を促進する実践であることが確認されていた。本年度の調査では,サウンドペインティングの実践者に自身の実践を映像資料とともに振り返ってもらいながら,何を基準に自分たちの実践を 「うまくいった」「イマイチだった」と判断しているのか,といった具体的な価値判断基準や,そのような価値判断が生起する条件等をインタビューと得られたデータのテキスト分析により明らかにした。具体的な調査としては,サウンドペインティングを授業の中で実施している音楽大学の学生たちの活動に密着し,参与観察とインタビューを行った。観察は前期7回(授業での実践6回+コンサートでの実践1回),後期8回(授業での実践6回+合宿での実践2回),インタビューは前後期各1回ずつ実施した。 前期のインタビューで得られたテキストデータをSteps for Coding and Theorization(SCAT)のメソッドで分析した結果,下記の結果が得られた。 1)参加者は実践を通して【戸惑いのフェイズ】から【チャレンジのフェイズ】へと【フェイズの移行】を経験する。 そして,おそらく【チャレンジのフェイズ】において,主観的(間主観的)価値判断は促進される。 2)【予定調和の打破】を目的とした【リスク・テイキング】なパフォーマンスができているか,【予測不可能性】を伴う演奏かどうか,そして何かが【「共有できている」感】を持てるかどうか,等が彼らの主観的(間主観的)価値判断基準となっている。 3)これらの基準は,サウンドペインティングが【非合理】をも許容する【音楽的余白】を十分に備えているからこそ成立しうる。 後期のインタビューで得られたデータについてはまだ分析していないが,前期との心境の違いやそれによってもたらされた音楽観の変化等についての発言が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
インタビューとテキストデータの分析は順調に進んでいる。特に,前期のインタビューでは当初計画していた「具体的な価値判断基準」や「そのような価値判断が生起する条件」の仮説を十分な形で立てることができた。当初計画していた一年目の調査プランは十分に達成できたと思う。 一方で,後期に予定されていたコンサートがCOVID-19の影響により中止になったこともあり,参加者とのインフォーマルなコミュニケーションで得られる質的な視座がやや減じられた感は否めない。上記の成果と差し引きして,「概ね順調」に該当すると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度については,当初は2019年度と同じサウンドペインティング実践者に注目して参与観察とインタビュー調査をすることでデータの精度を上げる予定だったが,実践者が履修していた授業が閉講になってしまい,計画変更を余儀なくされているのが現状である。ただし,上述したように,2019年度前期のインタビューでは比較的満足のいくデータが取れたことから,対象者を変えて参与観察とインタビュー調査をするのもむしろ効果的であるとポジティブに捉えている。候補となる人的対象はいくつかあるが,現状COVID-19の影響でアンサンブル活動全般が難しくなっているために,調査を打診することすら難しい状況である。2020年度についてはCOVID-19とそれに伴う社会情勢を見ながら柔軟に研究を進める必要があるように感じている。
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