2020 Fiscal Year Research-status Report
自閉スペクトラム症の受身性の発達プロセスの解明とPASASの各年代版の作成
Project/Area Number |
19K14295
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
松本 拓真 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (50805489)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 自閉スペクトラム症 / 受身性 / 特別支援教育 / カタトニア / インタビュー |
Outline of Annual Research Achievements |
自閉スペクトラム症の受身性の発達段階ごとの特徴を明らかにし,それらの知見をまとめあげ,発達プロセスの理解へとつなげていくために,前年度に引き続き青年期・成人前期を主な検討の対象とした。青年・成人の発達プロセスの検証は必然的に幼児期・学童期の発達プロセスの検証も含むため,本研究において最優先される内容と考えられたためである。受身的な特徴を持つ青年・成人の親計9名(子どもの年齢は17歳~32歳:平均22.6歳)にインタビューを行った。今回は1回目のインタビューの分析結果をインタビュイーに確認し,修正するといったトランスビューとしての2回目の面接をすべての協力者に実施した。それにより研究者の主観や聞き漏らしによる誤解などが混入する余地を減らすことができたと考える。その結果,幼少期とは異なるプロセスが思春期という心身の混乱時期にはあることが理解された。子どもが思春期における心身の変化を経験する際に,受身性から脱却していく人と固定化していく人がおり,その間にはどのような違いがあるのかが分析の中心であり,現在、発表の準備を進めている。 思春期は自閉症のカタトニア(緊張病)の好発期とも重なっている。今年度には受身性の延長としてカタトニアがあるという仮説を抱かせるような事例との出会いがあった。保護者からの希望もあり,私がShah(2019)のPsycho-Ecological Approachを取り入れ,特別支援学校や他の支援機関との協働により,カタトニアに対する貴重な支援事例を経験することができた。カタトニアの心理支援の可能性の一例として事例発表を行う準備と進めている。 これらの直接観察とインタビュー調査を統合することで自閉スペクトラム症の受身性の発達プロセスの理解とそこへの支援の可能性が広がるものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルス感染拡大のため,人を対象にした研究は緊急事態宣言のたびに中断せねばならない状況に置かれている。各協力者に2回のインタビューを行うこと自体も長期間にわたってしまった。さらに,自ら感染対策を取ることが困難な幼児期の子どもに対する直接観察については,保護者や支援者の心情を考えれば実施することが難しいと判断した。次年度においても感染拡大の収束は難しいと考えられるため、PASASの全年齢版の作成は感染拡大が落ち着くまでは保留にせざるをえないと考える。しかし,今年度までの研究により,受身性を抱えている子どもとその保護者は,子どもが幼児期の頃ではなく圧倒的に思春期以後に困難を体験することが多いことがわかってきた。青年・成人を対象とした研究を進めることで幼少期からの発達を類推し,考えうる臨床的問題への対応策を検討することが可能であるという実感も得ることができた。今後は協力者数を絞った中で,それぞれの人へのより詳細な検討を加える方向で研究を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も新型コロナウィルスの感染拡大が止まることは難しいと考えられるため,多数の被験者が必要となる質問紙調査などは控え,限られたサンプルの中でより詳細なプロセスの理解を深める方向に研究を進めていくことが妥当であると考えられる、特に感染対策を取ることができる自閉スペクトラム症を抱える青年や成人,保護者や支援者を対象とした研究を深めていくことで,「自閉スペクトラム症の受身性の発達プロセスの解明」という研究目的に沿った研究が行えると考えている。これらの研究を先行して行うことで,感染収束後にはPASAS全年齢版の作成はより短期間で適切なものできることが期待できる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスのため、参加希望学会が中止となるなどの事情により出張費がかからなかったことなどにより使用額が予定よりも少なくなった。今後はコロナウィルスの感染収束を待ち、必要な研究と成果公開のために研究費を活用していく予定である。
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