2021 Fiscal Year Research-status Report
20世紀米国における通常教育と特殊教育の二元的世界の形成と学業不振問題
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19K14301
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Research Institution | Fukuyama City University |
Principal Investigator |
吉井 涼 福山市立大学, 教育学部, 講師 (50733440)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アメリカ合衆国 / 学業不振 / 精神薄弱 / 精神科医 / 優生学 / 知能検査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、米国において、通常教育と特殊教育という二元的世界がいかにして形成されていったのかを、通常教育関係者や特殊教育関係者、精神科医等に着目しながら明らかにすることを目的としている。2021年度は主に次の3つの作業を実施し、成果を得た。 (1)通常教育との二元的世界が形成される前であり、全国規模の教育研究会議で学業不振問題が議論されていた19世紀末から1920年代において、正常と異常の狭間に位置する子どもの診断技法を開発したM. P. E. グロスマン(Maximilian Paul Eugen Groszmann)の思想と実践を究明した論文が国際誌に掲載された。グロスマンの実践は、効率的な診断と分類を意図したものではなく、子どもの複雑な性質を複雑なまま捉えようとするものであり、当時の知能検査運動の実践とは大きく異なることを明らかにした。 (2)米国において州特殊教育制度が確立していく時期である1930年代から、医療化言説が広まる1950年代頃までの、精神薄弱や学業不振に対する教育学・心理学・精神医学関係者の認識と対応に関する一次資料のさらなる収集を行い、分析を進めた。特に、1940年代に人口10万人あたりの断種実施数が全米トップであったデラウェア州に焦点をあて、同州の優生学運動の拠点であったデラウェア州立病院の精神衛生クリニック関係者の思想と実践を分析した。その結果、精神衛生クリニックにおいては、知的に遅れのない、読み障害のある子どもへの治療的対応が実施され、知能検査とIQに対する信頼が揺れ動いていたことが明らかとなった。 (3)米国の比較対象として、戦後日本における重度・重複障害児教育の展開過程を検討し、重度・重複障害児教育の特質を探るためには、家庭・福祉施設・医療との関係性を踏まえることが必要であると指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度も、新型コロナウィルス感染症による渡航制限のため、予定していた現地での資料調査と収集が困難であった。参加を予定していた学会の年次大会についても、オンライン開催が主となったため、情報収集や情報交換は不十分となった。研究遂行上の核となる資料については、インターネットや図書館への複写依頼等により入手できたが、さらなる資料収集については現地調査が必要であると考えているため、進捗状況はやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、新型コロナウィルス感染症の状況をみながらであるが、現地での資料の所蔵調査と収集を計画している。デラウェア州立病院精神衛生クリニックに関する研究を引き続き実施し、医療化言説が広まる中での、学業不振児と精神薄弱児の教育可能性に対する認識と対応について解明していく。研究成果については、国際誌への投稿を予定している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症により、昨年度に引き続き、現地での資料収集や国際学会への現地での参加が行えなかったためである。繰り越し金については、社会情勢次第であるが、現地での資料調査と収集に用いる予定である。
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Research Products
(2 results)