2019 Fiscal Year Research-status Report
視覚障害者の芸術鑑賞における触覚を介した形態認識と情緒に関する研究
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19K14310
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Research Institution | Tsukuba University of Technology |
Principal Investigator |
守屋 誠太郎 筑波技術大学, 産業技術学部, 講師 (90809310)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 視覚障害 / 芸術鑑賞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の当該年度(初年度)計画において、主に資料調査、施設調査、アンケート調査を設定していた。視覚障害者の触察による鑑賞活動と関係する施設(ギャラリーTOM、点字博物館、国立民族博物館)への視察調査を行った。アンケート調査ではヘレン・ケラー学院の利用者20名を研究対象者として調査を行なった。アンケート調査を本研究における鑑賞実験への第一次的な調査として位置付け、美術館利用や触察体験に関する質問紙調査及び、鑑賞による調査で試作品の形態認識や肯定感の評価を調査した。 調査から、視覚障害者の美術館利用の頻度は低いが、全盲者には音声ガイドと点字資料がよく利用されていることがわかった。これらを充実させることに加えて、立体作品については触察できると視覚障害者の芸術鑑賞の機会を増やすことにつながると考える。また、触察による鑑賞アンケートではサイズや素材の違いによる形態認識や肯定感の評価に大きく差が生じることを確認し、これらの評価に強い影響を与える要因であることがわかった。今後、このアンケートの調査結果を踏まえ、スケールサイズや素材の適正について考察し、次年度以降に予定している鑑賞実験について検討と準備、制作を進めていくものである。 また、本研究に関する学会等での発表は、東北芸術文化学会(2019年2月)において口頭発表、国立民族博物館(2019年11月)開催のシンポジウム「日本におけるユニバーサル・ミュージアムの現状と課題――2020オリパラを迎える前に」の特設展示ブースにて根付彫刻の触察用サンプルモデルの展示発表を行なった。これらのような調査に伴う段階的な発表を進める中で、新たな調査視点も見つかっている。具体的には、形態認識にはサイズと素材の他に、作品自体の形状の単純さや複雑さによる影響についても考慮した調査の必要性である。今後、形状とサイズの関係も含めて調査を進めたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の進捗状況としては、2019年度(2020年3月)までの研究成果は予定していた調査研究を遂行できたと考えており、2020年度に取り組む鑑賞実験実施に向けての考察材料を取得できたと考えている。 調査研究には、資料文献調査、施設調査、アンケート調査が挙げられる。施設調査においては、触察鑑賞作品を取り扱っている展示施設としてギャラリーTOM、日本点字博物館、国立民族博物館への訪問調査を行い、学芸員や職員へ展示形態についての意見交換や触察体験を通して調査を行なった。アンケート調査については研究実績の概要に記した通り実施し、文献資料調査については本研究に関係する資料を現在進行形で調査を継続している。 現在は、これらの調査結果をもとに今年度予定している鑑賞実験調査のための準備を進めている状況であり、主に鑑賞実験調査での触察用作品のモデル検討および制作なども含め、モデル開発について注力している段階である。研究協力機関として、造形会社であるselectD(株)に3D造形関連の技術協力をいただいている。また、研究代表者の所属機関である筑波技術大学の視覚障害系の教職員から研究倫理上の問題が生じないようアドバイスを受け、適切に研究を遂行するように努めている。 そして、昨年度アンケート調査で協力いただいたヘレン・ケラー学院に本年度も引き続き協力をいただく予定となっているが、現在(2020年5月)のコロナ禍の影響もあり、鑑賞実験調査の実施に向けた協議を進められない状況である。この影響によっては、実施年度が来年度に延期されることも考慮される。状況を見て、実施に向けて協議を再開していきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の予定としては、まず第一に鑑賞実験調査を最重要タスクとして計画しているため、それに向けた準備を行い、年度内実施の目標に向けて取り組む所存である。またその準備における鑑賞実験調査への触察用モデル制作について、同形状で異なるスケールサイズを作成する方法として3D造形装置が有用であるとし、これが活用可能なモデルについては、3Dスキャナーと3Dプリンターを活用していきたいと考えている。素材特性に重点を置くモデルについては、該当する素材におけるスケールサイズのシリーズを作成していきたいと考えている。 そして、研究推進の一環として段階的な研究発表予定があるのだが、この点については新型コロナウイルスの影響もあり、難航が予想される。本年度は視覚障害リハビリテーション学会におけるポスター発表(9月)と、国立民族博物館におけるユニバーサル・ミュージアム特別展(9月)での触察用彫刻作品の展示および図録著書出版が予定されていたのだが、これらについては新型コロナウイルスの影響によって今年度の開催が中止され、来年度以降に延期されてしまった。進捗状況でも調査協力機関との実施に向けた協議が困難な状況であることを記したが、新型コロナウイルスという、大きな問題が本研究に大きなブレーキをかけている状況であるため、本年度の研究計画が予定通り進まない可能性がある。 本研究においては、触察を伴う調査は人との接触および作品を介しての接触を避けられない点においても、ウイルスへの懸念が大きい。研究対象者の健康を配慮して進める必要があるため、慎重な準備と実施における配慮について細心の注意を払って進めていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画において、前年度予算を¥2400,000と計上していたが、予算執行できたのは¥800,000であった。これは、研究初年度である前年度において、次年度の実験に関わる物品を年度内に購入する計画であったのだが、前年度は所属研究機関における決済システムの改変の関係で予算執行期間が5月中旬から12月下旬までに縮小されたことで、年度末までに執行できない物品が多く残ってしまったことが大きな原因となった。また、それに加えて研究倫理審査に4ヶ月要してしまったことにより、研究着手の初動が遅れ、研究予算執行の全体的な遅れへと影響してしまった。 前年度の未執行予算の大部分は本年度に計画している鑑賞実験調査に関する費用であり、主に作品購入費用やスケールモデル制作における機材や物品の費用である。本年度は前年度の執行できなかった予算を予定通りに使用し、本年度予算については鑑賞実験調査の実施に際する会場、搬入出、実施後のデータ処理などの費用に使用する予定である。 また、現在の新型コロナウイルスの影響によって鑑賞実験調査の実施時期が大きく遅れ、年度末や来年度になる場合、予算執行にも影響し、来年度予算へ繰越す可能性が考えられる。
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