2019 Fiscal Year Research-status Report
向社会的意思決定を支える神経基盤に関する文化差の解明
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19K14353
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Research Institution | Tamagawa University |
Principal Investigator |
山田 順子 玉川大学, 脳科学研究所, 研究員 (20837124)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 向社会的意思決定 / social mindfulness / 共感 / 社会生態学的アプローチ |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である令和元年度では、日本における向社会的意思決定の心理基盤を探索的に検討した。 向社会的意思決定の心理基盤については、共感や利他性に基づくとする立場 (Lemmers-Jansen et al., 2018; van Doesum et al., 2013) と、向社会的意思決定の心理基盤は社会によって異なり、特に日本では他者よりも自己の欲求を優先することで生じる社会的排斥などの不利益回避の動機づけが基盤にあるとするYamagishi et al. (2008) の議論がある。本研究は、日本国内において、これら要因のいずれが向社会的意思決定と関連するか、また社会環境要因である関係流動性が向社会的意思決定を支える心理基盤にどのような影響を与えるかを検討した。 調査の結果、van Doesumらの知見と一貫し、日本においても共感的配慮や利他性が高いほど向社会的意思決定を行う傾向が示された。一方、評価懸念が高いほど向社会的意思決定を行わないことも見出された。評価懸念が高く他者からの否定的評価を恐れるほど向社会的意思決定を行わないとする結果は、Yamagishiらの議論に相反するように見える。 そこで社会環境の影響を考慮し、参加者を関係流動性の高低で群分けした上で関係流動性と各心理変数との交互作用を検討した結果、向社会的意思決定に対する各変数と関係流動性との有意な交互作用が得られた。第一に、共感的配慮の効果は高流動性環境でのみ有意だった。第二に、利他性の効果は関係流動性によらず有意だが、その効果は低流動性環境でより強かった。最後に、評価懸念の効果は高流動性環境でのみ有意であった。これらの結果は、社会環境によって向社会的意思決定の心理基盤が異なることを示唆している。次年度では、米国で同様の調査を実施し日米比較を行うほか、fMRIを用いた脳活動の計測を行うことで向社会的意思決定の神経基盤とその社会差を検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度にあたる令和元年度では、日本および米国においてweb調査の実施を予定しており、調査準備および日本でのデータの収集を完了した。米国での調査は米国在住の研究協力者と相談し3月に実施予定であったが、COVID-19の流行と米国における緊急事態宣言の発令により研究協力者の大学が閉鎖されたことに加え、自主隔離による心理・行動への影響が懸念されたため、研究協力者と相談の上、実施を延期することとなった。 このため、すでに収集を終えている日本データを用いて、欧米で見出された先行研究の結果が日本でも再現されるか、先行研究で検討されなかった変数と向社会的意思決定との間に関連が見られるか、および日本国内における社会生態学的環境の差異による違いを検討することで、向社会的意思決定の心理基盤の文化的差異を間接的に検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度では、まず米国におけるweb調査を実施し、令和元年度に収集した日本データと合わせて、向社会的意思決定とそれを支える心理基盤の日米差を検討する。また、調査の実施と並行して、年度後半に実施予定であるfMRI研究に向け、日本在住の米国人参加者の募集準備を進める。 年度の後半には、先行研究で向社会的意思決定との関連が示されている共感性や利他性に関わる脳領域(内側前頭前皮質や側頭・頭頂接合部)と、評価懸念と関与すると考えられる部位(扁桃体)の賦活と向社会的意思決定との関連を、fMRIを用いて検討する。また、fMRIと合わせ日米それぞれの社会構造変数(e.g., 関係流動性)を測定することで、向社会的意思決定を支える心理・神経基盤の文化差と、そうした文化差を生み出す社会生態学的環境構造要因を検討する。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、1月末から2月初頭にかけて米国で開催される学会 (Society for Personality and Social Psychology) への参加と (およそ260,000円)、米国での調査実施を予定していた (およそ100,000円)。しかしながら、1月当時から新型コロナウイルスの流行が見られ各国で渡航制限が敷かれ始めたことを鑑みて、学会出張を急遽取りやめることとなった。また米国での調査についても同様に3月初頭の実施を予定し、米国在住の研究協力者と準備を進めていたが、新型コロナウイルスの拡大に伴う大学期間の閉鎖や外出時出の施行が生じた。研究協力者と相談の上、現時点では調査の実施が困難であると判断し、調査についても新型コロナウイルスの状況を鑑み次年度に予定を繰り下げることとした。
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