2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K14358
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
綿村 英一郎 大阪大学, 人間科学研究科, 准教授 (50732989)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 量刑判断 / 裁判官と一般人 / 正当化理由(justification) / 応報 / 児童虐待 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,刑事裁判における量刑判断を職業裁判官と一般市民で実験的に比較することにより,「法的正義」とは何かを解明することであった。2020年度に行ったオンライン実験により,裁判官は応報的な正当化(以下,justification)を考慮はするものの,一般人に比べればその偏りは小さく,他の功利的なjustificationとのバランスをとっていることが明らかになった。また,その帰結としての量刑も軽くなることが示された。2021年度は,こうした「法的正義」を解明する過程で明らかになった限界をふまえ,justificationを測定する新たな方法の開発に注力した。この方法を確立しておくことで,裁判官の「法的正義」がいかなる条件において一般市民の正義に近づくのか,あるいは対立しうるのかをより明らかにすることができると考えた。具体的には,処罰理由は複数のjustificationの混合であるとするハイブリッド説(Hoskins, 2020; Robinson, 1987)を比率型の測定法として実装した。まずは新測定法の有効性を確かめるため,テストの題材として児童虐待事件を用い,被害が深刻なケース(致死)と比較的軽微なケースで比較する実験を行った。一般市民を対象に,いずれか一方のケースを提示し,新測定法でjustificationを調べた。このテストでは,ほぼ予測どおり,事件内容の操作に応じてjustificationに差が生じていた。この結果は,21年度の学会大会で口頭報告し,査読付きの国際誌に採択された。さらに本年度は,この新しい測定法の有効性を確かめるため,テストとして周辺的な研究にもいくつか取り組んだ。次のステップでは,裁判官と一般市民とで比較検討を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた対面による実験や調査は結局できなかったが,オンラインへの切り替えたことによって70~80%の目標は達成できた。当初の計画を完全には達成できなかった代わりに,研究の過程で開発したjustificationの測定法は,今後の刑事司法の心理学における研究に貢献できると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは,裁判官と一般市民を比較する実験を新しい尺度を用いて行う。さらに,3年間の研究期間で集めた実験・調査の成果を学術論文として発表したい。裁判官に関する研究の重要性は海外でも認められているものの,「司法制度や文化間の違いを超えた意義にどれくらい踏み込めるか?」が本質的な課題であるということが明らかになってきた。法学者や実務家などと連携し対応を考えたい。
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Causes of Carryover |
前年度のCovid19による影響で遅れた分を今年度で吸収しきれなかった。とはいえ,残りはさほどなく,オンライン調査で使用する計画も整っている。
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Research Products
(6 results)