2019 Fiscal Year Research-status Report
文章聴解スキルの構成要素の解明と方略に基づいた指導法の開発
Project/Area Number |
19K14380
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 麻衣子 東京大学, 先端科学技術研究センター, 講師 (60534592)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 聴解 / 読解 / ICT / 読み困難 |
Outline of Annual Research Achievements |
ICTが普及され,教科書等を音声化して提示できるようになり,読むことに困り感を持つ学習者が学習に参加するハードルが下がっている。このような中で,読解スキルの育成と同様に,文章をよりよく聞くための聴解スキルの育成方法が模索されている。本研究では,聴解と読解の認知過程とそれぞれに必要な認知コンポネントを明らかにすること,それをふまえた聴解方略の開発と指導を行なうことを大きな目的としている。 本年度は,読解と聴解の認知過程の関連を明らかにすることを目的として,小学生の聴解と読解のスキルを比べる課題を学級単位で実施した。公立小学校に在籍する小学2~6年生158名に,500字程度の説明的文章を自力で読んで理解する課題と,読み上げ音声を聞きながら読んで理解する課題を課して,その成績を比較した。各課題につき2つの説明的文章を設定し,各文章に5つの設問を設定した。設問は,文章の逐語的な記憶を問うものと,内容理解を問うものとし,その正答率を読解または聴解スキルの指標とした。 学年ごとに,読解と聴解の成績を比較したところ,逐語記憶問題の正答率は学年を追うごとに向上するものの,読解時と聴解時での成績の差はないことが示された。一方で,内容理解問題の正答率は,学年ごとに傾向が異なり,2~4年生においては読解課題のほうが聴解課題よりも成績が有意に高く,5年生ではその差が有意傾向となり,6年生で有意差がなくなることが示された。本研究の実施環境下では,読み上げ音声を提示されるよりも自力で読むほうが全体的には理解が促進されるという結果となった。 ただし,読解課題の成績が平均より1標準偏差以上低い児童が30名存在し,その中で聴解課題の成績が平均点から1標準偏差以内か,平均以上になる児童はその7割の21名であった。自力読みが困難である場合,ICT等で読み上げ音声を提示することが文章理解を補償することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展している。 本年度の研究計画として記載した,児童・生徒の読解スキルと聴解スキルの関連についての実態調査研究(研究1)を,小学2~6年生を対象として実施することができた。本課題を実施するために,各学年に適切な難易度の説明的文章を新たに作成する必要があったが,料理のレシピや人間の情報処理活動をテーマとして,複数の文章を作成し,予備調査によって文章や設問の難易度を調整することができた。また,聴解課題に必要な音声情報を朗読が得意な女性の読み上げ音声として録音し,各文章でほぼ同程度の提示時間や音圧にそろえるように編集し,各学級での課題の実施の条件を等質にするように準備をすることもできた。 一方で,本年度は文章の逐語的な記憶と内容理解だけでなく,内容理解の中でも文章全体にかかわる理解と局所的な理解の成績も比較する予定であり,そのための設問の準備を行なっていたが,新型コロナウィルスによる活動制限により,予定されていた調査を実施することができなかった。さらに,これまで蓄積されてきた読解の指導方法を参考に聴解の指導方法を確立し,実際の児童に向けた予備的な実践も予定していたが,こちらも活動自粛のために小学校への訪問ができず実施できていない。 ただ,上記の調査や実践はすでに準備が完了している状態であるため,次年度に活動制限がなくなった際にはすぐに実施することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては,まず,活動制限が解かれたらすぐに,小学生や統制群としての成人を対象として,聴解と読解のスキルの関連を探る調査を引き続き実施することを挙げる。同時に,課題としての文章と設問を新たに複数作成し,聴解と読解のアセスメントとして広く使用されるような教材の確立を目指す。 また,読解と聴解のスキルを構成する認知コンポネントを探る心理実験研究(研究2)を行なう。読解時には学習者自身が理解状態をモニターしながら読解行動を適宜修正するためのメタ認知能力が求められるが,聴解時にはそれに加えて情報の一時的な保持と処理を効率的に行なうワーキングメモリへの負荷がより大きくなることが考えられる。次年度に注力する研究2では学習者のメタ認知能力とワーキングメモリ容量に主に着目し,これらの認知コンポネントが聴解と読解スキルにどのように影響するのかを検討する。これまでの参加者の中から,読解成績と聴解成績の高低によって4群抽出し,彼らのメタ認知能力とワーキングメモリ容量,その他関連しそうな認知コンポネントを既存の心理検査をもとに課題を作成して実施する。これらの課題成績と研究1での読解と聴解成績との関連を検討することで,読解と聴解スキルにかかわる認知コンポネントの違いを明らかにする。 さらに,聴解スキルを育成するための方略を開発し,これを指導する予備的な実践を行なう。 これまでの研究に参加した学級に協力を要請し,「よく読むためには」「よく聞くためには」といった指導を行ないその効果を個人ごとに検討する。また,読むことに困り感を持つ児童・生徒をピックアップして音声読み上げを活用した聴解方略を教授し,彼らの文章理解スキルに及ぼす効果を検討する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスによる活動制限により,予定していた調査および実践研究の実施ができなくなり,このための予算が試行されずに次年度に繰り越されることとなった。 本年度予定していた調査および実践研究は次年度に実施する算段ができており,繰り越して実施することとする。
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Research Products
(6 results)