2020 Fiscal Year Research-status Report
文章聴解スキルの構成要素の解明と方略に基づいた指導法の開発
Project/Area Number |
19K14380
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 麻衣子 東京大学, 先端科学技術研究センター, 講師 (60534592)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 聴解 / 読解 / ICT教育 / 学習方略 |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウイルスの感染防止策による臨時休業の措置をきっかけとし,「GIGAスクール構想」が後押しして,小・中学校の授業へのICTの導入が加速した。タブレット端末の導入によって教科書や参考書が音声化されれば,これまで紙媒体でしか提示されなかった文字情報を「聞く」ことが可能になる。このような中では,読解スキルの育成と同様に,文章をよりよく聞くための聴解スキルの育成方法が模索されている。本研究では,聴解と読解の認知過程とそれぞれに必要な認知コンポネントを明らかにすること,またそれを踏まえた聴解方略の指導方法を確立することを大きな目的としている。 本年度は昨年度に小学生に対して実施した課題を成人に対して実施し,成人一般の読解と聴解の認知過程を検討するとともに,聴解スキルを育成するための手立てを模索することを目的とした。18名の成人を対象に昨年度の課題で使用した文章と新たに作成した文章(それぞれ約500~600文字)を自力で読んで理解する課題と,他者の読み上げ音声を聞きながら読んで理解する課題を課して,その成績を比較した。各説明文章に,文章内容の逐語的な記憶を問う設問と,内容理解を問う設問,さらに,自分の知識と結びつけて応用的に考える設問を設定し,その正答率を読解または聴解スキルの指標とした。 読解課題と聴解課題の各設問の平均正答率を比較したところ,応用問題での成績に差はなかったが,逐語記憶問題と内容理解問題の正答率はいずれも読解課題のものが有意に高かった。課題実施中の参加者の行動を分析したところ,聴解課題に比べて読解課題の際に参加者は課題文章に線を引いたり囲んだりする書き込み方略を活用していたことが示された。 聴解時には提示された音声を聞くことにとどまり,情報に対する能動的な働きかけが難しい。読解時の書き込み方略のような,聴解を促進するための方略の開発が必要であることが考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展している。 コロナ禍の中,昨年度の「今後の研究の推進方策」に記載した,成人を対象とした実験を,実験状況に配慮しながらも実施することができた。また,実験の実施が困難であった期間は課題となる説明的文章を新たに複数作成し,それぞれに対する設問も,逐語記憶と内容理解だけでなく,参加者の知識を活用して状況モデルを生成する応用問題も作成し,成人への実験でその妥当性を検証することができた。また,読解と聴解の成績にかかわると考えられる,理解中の行動を測定して分析することで,聴解スキルの育成のための方略の指導の可能性を検討することもできた。 このように研究が進捗している一方で,コロナ禍での活動制限により,読解と読解とスキルにかかわると考えられる認知コンポネントについての実験的検討を十分に行うことができなかった。聴解や読解の過程には,学習者のワーキングメモリや継時処理のスキル等がかかわると考えられるが,読解と聴解の成績とこれらの認知コンポネントの関連をみる実験はウェブによる実施が難しく,大学キャンパスへの入構制限により対面での実施も困難であった。そのため,ウェブでの質問紙調査に切り替えたが,その信頼性は担保されにくく,これまでのように対面での実験の実施が望まれる。 また,小学生への読解と聴解のスキルを育成する予備的な指導実践も実施する予定であったが,小学校への協力の要請が難しく実施できていない。ただし,上記の実験や指導実践の準備はほぼ整っているため,活動制限がとかれたらすぐに実施することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては,以下の二点に集約される。 一点目に,読解と聴解のスキルを構成する認知コンポネントを探る心理実験研究を行なうことを挙げる。読解時には学習者自身が理解状態をモニターしながら読解行動を適宜修正するためのメタ認知能力が求められるが,聴解時にはそれに加えて情報の一時的な保持と処理を効率的に行なうワーキングメモリへの負荷がより大きくなることが考えられる。さらに,情報を同時にではなく継次的に処理するスキルも聴解時にはより求められることが考えられる。そこで次年度はまず,学習者のメタ認知能力とワーキングメモリ容量,さらに継次処理スキルに着目し,これらが聴解と読解スキルにどのように影響するのかを検討する。これまで開発した課題文章セットを使用して成人を対象に,読解と聴解の成績を比較する実験を実施する。さらに,先行研究をもとに参加者のメタ認知能力,ワーキングメモリ容量,継次処理スキルを測定し,読解と聴解スキルにかかわる認知コンポネントの違いを明らかにする。 二点目に,聴解スキルを育成するための方略を開発し,その有効性を検証する指導実践を行うことを挙げる。読解時には,文章に書き込んだり何度も読み返したりする方略が理解を促進することが知られているが,聴解時の方略についてはまだ検討が十分になされていない。音声情報は書かれた文字のようにとどまらず,聞き返すことが難しい。したがって,読解時よりも提示された情報に対して受け身になりやすい。能動的に聴解を行なうためには,例えば聞く前にどういう話であるかの予測を立てたり,聞きながらキーワードをメモ書きしたり等の方略の活用が考えられる。これらの方略の有効性を,実際の読解と聴解の指導場面で検証し,タブレット端末を使った読解・聴解を含む文章理解指導へ提言することをねらう。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大防止策による活動制限により,昨年度より継続して,予定していた対面での実験および指導実践の実施が困難となっている。さらには学会が国内国外問わず,バーチャルで開催されるようになり,予算として計上していた旅費をほぼ執行できなかった。そのため,一部の予算が次年度に繰り越されることとなった。 本年度予定していた実験および実践研究は次年度に実施する算段ができており,繰り越して実施することとする。また,これまで計画に組み込んでいなかったウェブを活用した調査も可能な限りで実施し,研究を遂行する。
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Research Products
(3 results)