2021 Fiscal Year Research-status Report
文章聴解スキルの構成要素の解明と方略に基づいた指導法の開発
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19K14380
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 麻衣子 東京大学, 先端科学技術研究センター, 講師 (60534592)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 聴解 / 読解 / ICT教育 / 学習方略 |
Outline of Annual Research Achievements |
「GIGAスクール構想」によって児童・生徒がそれぞれのタブレット端末によって学習を進めることができるようになった。教科書や参考書がタブレット端末に電子情報として導入されれば,これまで紙媒体でしか提示されなかった文字情報を音声化して「聞く」ことができる。そのような状況において,読解スキルの育成と同様に,文章を聞いて理解する聴解スキルを育成する手法の確立が求められる。本研究では,聴解と読解の認知過程とそれぞれに必要な認知コンポネントを明らかにすること,またそれを踏まえた聴解方略の指導方法を確立することを大きな目的としている。 本年度は,聴解スキルにかかわる認知コンポネントを明らかにし,聴解を促す指導法を確立することを目的とした調査研究を行なった。音声言語は文字言語と比較して読み返しが難しいため,提示される情報を継次的に処理するスキルが聴解に寄与する一要因であることが考えられる。そこで,本年度は学習者の継次処理スキルに着目し,これが聴解スキルにかかわるかどうかを調査研究によって検討した。中学1~3年生286名と成人85名を対象として,継次処理スキルを測定する6項目と,聴解と読解の得意度についての項目を含んだ質問紙調査を行なった。その結果,読解よりも聴解が得意な学習者の割合は成人で29.4%,中学生では12.9%であり,中でも「聴解のほうが明らかにわかりやすい」と考える学習者は成人9.4%,中学生3.8%で,「読解のほうが明らかにわかりやすい」と考える成人37.6%,中学生53.5%に比較して圧倒的に少数であり,多くの人にとっては聞くより読むほうがわかりやすいという結果となった。また,聴解の得意度と継次処理スキルとの得点については,成人と中学生どちらにおいても相関がみられなかった。聴解には継次処理スキルよりもワーキングメモリ等の認知コンポネントがかかわっていることが推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に「今後の研究の推進方策」として記載したのは,読解と聴解のスキルを構成する認知コンポネントを探る心理実験研究と,聴解スキル育成のための方略の開発と指導実践研究の2点であったが,1点目の認知コンポネントの検討については中学生と成人を対象としたウェブの調査によって実施することができた。当初は対面による個別の心理実験を予定していたがコロナ禍によって対面の実験研究実施の予定が立ちづらく,ウェブの調査に切り替えた。そのため,焦点を当てた認知コンポネントとしての継次処理スキルをパフォーマンスではなく質問紙への回答で測定することとなったが,この質問紙の妥当性については慎重に検討する必要がある。今年度は聴解スキルとの関連がみられなかったが,質問紙による自己申告ではなく,聴解と読解のパフォーマンスと関連する認知課題の成績との相関を今後検討する必要があると考えている。 昨年度に「今後の研究の推進方策」として記載した2点目の指導実践研究については,こちらも連携している小中学校がコロナ禍によってカリキュラムの変更等があり,時数が限られてしまい実施が困難であった。これまでの研究によって聴解にかかわる認知コンポネントを明らかにし,「よりよく聞く」方法についての指導方法も考案されているため,次年度に連携している小中学校とスケジュールを確定させてすぐに実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は,以下の二点に集約される。 一点目に,読解と聴解の認知過程にかかわる認知コンポネントを実験的に検討することである。今年度,情報を順番に処理していく継次処理スキルに着目し,これと聴解スキルとの関連を検討したがその関連は見られなかった。しかし,読解と聴解にかかわると考えられる認知コンポネントは継次処理スキルだけではない。読解時には学習者自身が理解状態をモニターしながら読解行動を適宜修正するためのメタ認知能力が求められるが,聴解時にはそれに加えて情報の一時的な保持と処理を効率的に行なうワーキングメモリへの負荷がより大きくなることが考えられる。そこで次年度はまず,学習者のメタ認知能力とワーキングメモリ容量が聴解と読解スキルにどのように影響するのかを実験的に検討する。参加者のメタ認知能力,ワーキングメモリ容量を実験的に測定し,参加者の読解と聴解の課題成績との関連を検討することで,聴解と読解スキルにかかわる認知コンポネントの違いを明らかにする。 二点目に,聴解スキルを育成するための方略を開発し,その有効性を検証する指導実践を行うことを挙げる。読解時には,文章に書き込んだり何度も読み返したりする方略が理解を促進することが知られているが,聴解時の方略についてはまだ検討が十分になされていない。音声情報は書かれた文字のようにとどまらず,自分のペースで処理をすることが難しい。つまり,自分の理解しやすいペースでの速度の調整や,聞き返し等の方略が必要であることが考えられる。また,聞く前にどういう話であるかの予測を立てたり,聞きながらキーワードをメモ書きしたり等,読解と同様の方略の活用も考えられる。これらの方略の有効性を,実際の読解と聴解の指導場面で検証し,タブレット端末を活用した読解・聴解を含む文章理解指導へ提言することをねらう。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大防止策による活動制限により,昨年度より継続して,予定していた対面での実験および指導実践の実施が困難となっている。さらには学会が国内国外問わず,バーチャルで開催されるようになり,予算として計上していた旅費をほぼ執行できなかった。そのため,一部の予算が次年度に繰り越されることとなった。 本年度予定していた実験および実践研究は次年度に実施する算段ができており,繰り越して実施することとする。連携先の小中学校として,申請者の所属機関がある東京都内だけではなく,国内で研究実施が可能な小中学校を探してコロナ禍でも実施できるようにスケジュールを立てる予定である。所属研究室では群馬県や京都府にも連携できる学校があるため,これら遠方での研究実施のための旅費にも予算を使用する。
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Research Products
(1 results)