2019 Fiscal Year Research-status Report
ライフスキルおよびSOCの向上を目的とした心理教育プログラムの開発と効果検証
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19K14393
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
嘉瀬 貴祥 立教大学, 現代心理学部, 助教 (40804761)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Sense of Coherence / ライフスキル / ストレス対処 / 健康教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,①ライフスキル(以下,LSと略記)と首尾一貫感覚(Sense of Coherence;以下,SOCと略記),これらに関連する要因の因果関係を縦断的量的研究により実証的に明らかにすること,②介入方法の確立が課題とされるSOCとは対照的に,具体的なプログラムが複数提案されているライフスキル・トレーニングに視座を置きつつ,量的研究より得られた知見に基づいてSOC強化をも視野に入れたプログラムを開発し,縦断的な試行と効果検証を行うことを目的としている。この目的に沿い,以下の3段階で研究を実行する計画を立てている。まず研究1として,SOCとLSに関する理論モデルの構築と検証を行い,次に研究2として,研究1の結果をふまえた健康教育プログラムの開発に取り組み,研究3として開発されたプログラムの効果検証を行うという手順である。2019年度は研究1に主として取り組むのが当初の予定である。 2019年度は研究1の目的に沿い,日本全国の青年と成人を対象とした中規模(N=1,500程度)のウェブ調査を計4件実施した。これらの調査により,SOCとLSの因果関係を検証するための必要な縦断的データが得られたほか,健康教育プログラムの作成時に考慮すべき精神的健康,性格特性といった要因に関する量的データを併せて収集することができた。加えて,2018年度に本研究の準備段階として実施していたウェブを介した自由記述調査(N=400)の結果に基づいて,2019年5月~10月にかけて複数の研究者間で質的分析を行った。この検討を通じて,高いSOCを持つ者のストレスマネジメント様式の特徴を明らかにすることができた。 これらの研究で得られた知見は,学術誌「パーソナリティ研究」と「ストレス科学研究」に学術論文として公表することができた。さらに現在,複数の関連する論文を投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上述のように2019年度には,研究1の目的を達成するために必要な量的研究(ウェブ調査から得られたデータに基づいた,SOCとLSおよび関連する要因に関する縦断的因果関係の検討)と質的研究(自由記述調査から得られたデータに基づいた高いSOCを有する者のストレスマネジメントの特徴の解明)を実施した。これらの量的研究と質的研究について,得られた知見を学術論文として発表することができた。2019年度中に実施した調査より得られた知見を学術的な形で即座に集約できたことから,研究課題の進捗状況は良好であると考えられる。加えて質的研究については,他機関に所属する複数の研究者間での討議を必要としたが,その過程も円滑に進行することができた。これらの成果は研究の立案時に想定されていた内容以上であり,さらに他の関連研究も進行していることから,2020年度の研究をより充実したものにすると考えられる。 本研究課題に関連して,SOCに関する2件の研究成果を学術誌(パーソナリティ研究,ストレス科学研究)に論文として公表することができた。これらの研究は本研究課題の大きな目的である健康教育プログラムの考案に対して重要な示唆を与える知見を報告している。 以上の様に2019年度には,研究課題全体,あるいは2020年度に実施する研究へ向けて非常に有意義な成果を上げることができたことから,その進捗は計画以上のものであったと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度には,2019年度に得られた研究知見に基づき健康教育プログラムの作成を進める。具体的には,①高SOC者のストレスマネジメントの特徴に基づいたストレスマネジメントのチェックシートの作成,②関連する既存のプログラム(e.g., ライフスキル・トレーニング,ストレスマネジメント,認知行動療法)内容の集約と整理,③プログラムの実施形態と内容(各回の目標)の検討,④関連する量的研究を実施する。 ①から③については,大石和男教授(立教大学),島本好平准教授(明星大学),上野雄己助教(東京大学)ら関連領域の研究者とも連携して進めていく。主に研究代表者が集約した情報を研究者間に共有しそれぞれから意見を募る形式をとるが,必要に応じてオンラインミーティングを開催し全員で協議することとする。共同研究者にはこのような形で研究を行うことに同意を得ており,今後の研究を推進するうえで必要となる研究体制も確保できている。研究代表者は関連文献の収集と整理を行いながら,教員向けに実施されるプログラムの講習会や研究者向けのセミナーなどに参加しプログラムの実施可能性について情報収集を行う。 また④については,主にSOCを測定する尺度の信頼性と妥当性の検証に取り組んでいく。Antonovsky(1987)が開発した29項目版7件法SOCスケールは様々な言語に翻訳され今日まで使用され続けているが,その信頼性と妥当性が恒常的に確保できないことが使用上の問題として指摘されている。そこで,項目反応理論などの手法を用いて,SOCスケールの測定精度を高める研究を試みる。併せてより少数の項目でSOCを測定することのできる尺度の使用可能性についても検証する。 なお本研究課題に関しては,健康教育プログラムの検討に際して長期にわたる試行錯誤が求められるため,本研究課題終了後もより発展的な研究として継続して取り組む予定である。
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Research Products
(9 results)