2021 Fiscal Year Research-status Report
ライフスキルおよびSOCの向上を目的とした心理教育プログラムの開発と効果検証
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19K14393
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
嘉瀬 貴祥 立教大学, 現代心理学部, 助教 (40804761)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 首尾一貫感覚 / ライフスキル / ライフスキル・トレーニング / 心理測定尺度 / 感染症予防行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,ライフスキル(Life Skills;LS)と首尾一貫感覚(Sense of Coherence;SOC),およびこれらに関連する要因の因果関係を縦断的量的研究により実証的に明らかにすること,加えて,具体的なプログラムが複数提案されているライフスキル・トレーニング(Life Skills Training;LST)に視座を置きつつ,SOCの強化をも視野に入れたプログラムを開発し,試行と効果検証を行うことを目的としている。 この目的に沿い,以下の3段階で研究を実行する計画を立てた。まず研究1としてSOCとLSに関する理論モデルの構築と検証を行い,次に研究2として研究1の結果をふまえた健康教育プログラムの開発に取り組み,研究3として開発されたプログラムの効果検証を行うという手順である。2021年度は研究2および3の目的に沿い,健康教育プログラムの開発と試行に取り組む計画であった。しかしながら,2020年度と同様に,調査参加者を募集する形式でのプログラムを試行することが新型感染症流行の影響から困難な状況が続き,研究計画を大幅に調整して進めざるを得なかった。そこで,研究3において発展的・副次的な目的として予定していた,SOCを測定する尺度の信頼性と妥当性の検証と,LSTによってもたらされるSOC向上以外の効果についての検討に取り組んだ。これらの目的に加え,2020年度に実施した新型感染症に対する予防行動とLSおよびSOCの関連の調査についても,ウェブ調査を利用しながら継続的に実施した。これらの調査から得られたデータを用いて,尺度の信頼性と妥当性と,本研究課題で開発するLSTが持つ効果についての多面的な検証や,感染症の予防行動に対してLSおよびSOCが持つ関連性についての知見の取得を行うことができた。研究成果の詳細は「現在までの進捗状況」に記載する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度には当初の研究計画を変更し,①SOC測定尺度(SOC-29)の信頼性と妥当性の検証,②LSが関連を持つSOC以外の要因の検討に主に取り組んだ。 SOC-29は,その信頼性と妥当性が恒常的に確保できないと指摘されている。そこで①では,項目反応理論を用いてSOC-29の問題点を詳細に検証した。その結果,項目レベルと選択肢レベルで回答の精度を低下させている要因が示唆された。これはSOC-29を改良する際の重要な手掛かりとなる知見であり,今後のSOC研究に大きく貢献する可能性がある。この成果については,「Japanese Psychological Research」に論文として公表することができた。 加えて②では,現在行っている課題から注意が逸れ,別の内的な情報に注意が移ることを示すマインドワンダリング(Mind Wondering;MW)を取り上げ,LSとの関連性を量的・質的側面から検証した。その結果,LSは状態的なMWに対して負の関連を持っていることが示唆された。この結果から,SOCの向上を目的としてLSTを行う際には,副次的な効果としてMWの抑制が生じる可能性があると考えられる。本研究で得られた示唆を参考としてLSTの内容を検討することで,さらに多様な効果を持つプログラムを開発することができる。この成果については,「Frontier in Psychology」に論本として公表することができた。 このように2021年度は,本研究課題を進めていくにあたり発展的な内容に取り組むことができた。これらの成果は,開発中であるLSTの内容を当初の計画以上に効果的なものにする可能性があり,2022年度の研究をより充実したものにすると考えられる。以上のことから,本研究の進捗は概ね計画通りのものであったと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度には,2019-2021年度に得られた研究知見に基づき健康教育プログラムの作成を,新型感染症の流行状況を慎重に考慮しながら再開する予定である。本研究計画の開始時には,一度に複数の参加者に講習形式で実施するプログラム形態を検討していたが,現状をふまえて,オンライン上で実施することができるプログラムの開発も2021年度から継続して視野に入れる。具体的な手順としては当初の計画内容に沿い,①高SOC者のストレスマネジメントの特徴に基づいたストレスマネジメントのチェックシートの作成,②プログラムの実施形態と内容の検討を実施する。 ただし,研究代表者の異動に伴い,昨年度までとは研究活動に取り組む環境が大きく異なっている。研究の遂行に必要な機器の準備が改めて必要なことに加えて,研究機関の所在地が埼玉県から愛媛県となったことで,プログラム参加者の募集などに時間を要することが予想される。しかしながら,これまでに本研究課題に助力をいただいている関連領域の研究者からは,引き続き連携して研究を進めることについて同意をいただいており,研究課題の遂行に大幅な支障が生じないように最大限の助力を得られる体制を整えている。主にオンラインミーティングなどの形式で,意見交換を行うことを予定している。 また新型感染症に対する予防行動についての研究も継続して実施する予定である。昨年度実施したオンライン調査から得られたデータは現在分析中であり,今年度内に学術論文として公表することを目標としている。なお本研究課題に関しては,健康教育プログラムの検討に際して長期にわたる試行錯誤が求められるため,本研究課題終了後もより発展的な研究として継続して取り組む予定である。
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Causes of Carryover |
上述のように,2021年度は調査参加者を募集する形式でのプログラムを試行することが新型感染症流行の影響から困難となった。また,学会大会のオンライン開催化や講習会,セミナーの中止などの措置も,2020年度と同様にとられることとなった。そのため,プログラムへの協力者への謝礼や,プログラムに必要な設備の準備費,講習会やセミナーへの参加費,研究成果を発表する学会への参加費や渡航費など,当初の研究計画において2021年度の研究費のうち大きな割合を占めていた内容へ研究費を支出することができなかった。このような理由から,1年間の研究機関延長に加えて,今回の報告書に示した次年度使用額が生じた。2022年度はプログラムの開発を再開する予定であることに加えて,新型感染症関連の研究も推進していく予定である。そこで,2021年度の次年度使用額をこれらの研究目的に沿った使途に適用していく。つまり2022年度は,プログラムの開発に関する経費(謝礼,実施補助手当,施設準備費など),ウェブ調査の実施や研究成果の発表に関する経費に繰り越した次年度使用額分の研究費を充て研究計画を進めていく。加えて,研究代表者の異動に伴い必要となった研究環境の整備にも,研究費を使用する必要がある。
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Research Products
(5 results)