2020 Fiscal Year Research-status Report
心理援助職の倫理的困難の実態及び倫理的意思決定能力の発達的変化に関する研究
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19K14411
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
慶野 遥香 筑波大学, 人間系, 助教 (10633224)
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Project Period (FY) |
2020-02-01 – 2023-03-31
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Keywords | 心理職の職業倫理 / 職業倫理教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、実践に役立つ心理援助職の倫理教育の在り方に関する基礎的知見を得ることによって、心理援助職の倫理性向上に貢献することである。 2020年度に実施した調査:この目的を達成するために、心理援助職が現場で経験する倫理的困難に関するオンライン質問紙調査を実施した。対象は公認心理師と臨床心理士のいずれかの資格保持者、実施時期は2020年10月~2021年3月であった。 結果:有効回答372名のうち、過去2年に倫理的困難を経験した199名から375の具体的な事例が報告され、KJ法を参考に内容ごとにカテゴリを生成した。その結果、秘密保持に関する問題、対象者との関係の問題、自己決定権の尊重の問題、同僚の非倫理的行為の問題が多く報告された。特に、他の援助職との連携に伴う難しさや、学校、地域コミュニティの中で生じる多重関係、心理支援の質や枠組みについての葛藤も報告された。 考察と意義:筆頭研究者が2009年~2010年に臨床心理士を対象に行った同様の調査と比べて幅広い内容が得られ、「心理支援の質や枠組み」など新たな内容の報告もあった。心理援助職は、公認心理師制度の成立、開始に伴い、専門家養成課程や期待される役割、職域が大きく変化する時期にあり、今回の結果もそうした背景の影響が示唆されるものである。従来の心理援助職の職業倫理は個人面接中心の援助モデルを前提としている部分が多く、今回の研究の成果は、今後の心理援助職に必要な倫理教育の在り方を考える重要な知見と言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、当初2つの計画が立てられていた。1つ目の計画である心理援助職の倫理的困難に関する調査は、上で述べたように予定通りに実施が完了し、成果報告に向けた準備を行っているところであるため、充分に順調に進展していると言える。 一方、もう一つの計画では心理援助職の倫理的意思決定の発達的変化を定量的に測定するために、海外で用いられている尺度を翻訳し、調査の準備を行う予定であった。しかし、改めて尺度や関連する文献を精査した結果、尺度が作成された米国と日本では心理援助職の資格制度や養成課程が異なることや、日本の心理援助職はその年代によって受けてきた教育や働き方が大きく異なるため、定量的な尺度を用いた年代ごとの比較を行っても、発達的変化を示すものとは解釈しにくいこと等を鑑み、研究の方法を変更することとなった。新たな方法として、各個人がどのようなプロセスで倫理的意思決定の枠組みを発達させてきたかを質的に検討するために、インタビュー調査を計画、準備している。 このように、1つ目の計画は予定通り進んでおり、2つ目の計画は当初予定していた進捗は得られていないものの、本来の研究目的に照らして必要な変更を行ったものであるため、全体としてはおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に実施した、心理援助職の倫理的困難に関する調査については、本年9月の日本心理臨床学会第40回大会に発表の登録をし、準備を行っている。参加者とのディスカッションを経て再度考察を行い、研究論文の形にする予定である。 心理援助職の倫理的意思決定の発達的変化については、インタビュー調査の準備中である。上記の調査の中で、回答者の一部からインタビュー調査に応じられる可能性があるとの回答を得ており、準備ができ次第、まずはこれらの人を対象に、調査の依頼を行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画では海外尺度の翻訳に関する予算を計上していたが、インタビュー調査に研究方法を変更したため、今年度中に使用することがなかった。次年度、インタビューの際の調査謝金として使用する予定である。 また、主に学会参加のために旅費を計上していたが、新型コロナウイルスの影響ですべてオンライン開催となったため、参加費以外の旅費の必要が生じなかった。
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