2022 Fiscal Year Research-status Report
R-PASを用いた減弱精神病症候群(APS)の病態の解明
Project/Area Number |
19K14457
|
Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
井上 直美 弘前大学, 保健学研究科, 准教授 (50815917)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 減弱精神病症候群 / 陰性症状 / 陽性症状 / R-PAS / ロールシャッハ・テスト / 社会的認知 / 社会機能 / 援助要請行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は代表者が別の研究機関に異動し,共同研究者も他機関へ転出したため,研究倫理審査を代表者の所属機関において一括申請した。また,共同研究施設として北海道の医療機関を1箇所追加した。新たに追加した共同研究施設において計8例の臨床群のデータを取得した。過去に取得したデータと合わせ,ロールシャッハ行動アセスメント・システム(Rorschach Performance Assessment System: R-PAS)のデータ取得数は,減弱精神病症候群(APS)群が9例,初回エピソード精神病(FEP)群が2例,健常ボランティア(HV)群が9例となった。また,他の実施法(包括システム)で取得した既存のロールシャッハ・データをR-PASの標準得点に変換したデータを合計31例生成し,解析し直した。 症例数が少数であるという限界はあるが,これまでの研究から推測されるAPSの病態としては以下のことが挙げられる。1) APSは陰性症状が主体であり,陽性症状が軽症化した後も陰性症状が長引く傾向がある。2) APSの先行研究の多くは15歳以上を対象に実施されてきたが,より低年齢の14歳あたりで多く発症する。3) APSの併存症としては神経発達症が最も多い。4) R-PAS上で評価される依存欲求・援助希求が強い。ただし,大都市部と地方都市の患者とでは援助希求の強さに違いがみられた。5) 陰性症状が長く持続している場合には社会的認知の歪みも重篤であり,就学・就労等の社会機能も低い。 APSの陰性症状の評価に関しては,国際的にも広く用いられている構造化面接のSIPS/SOPSよりも,R-PASの方が臨床的有用性が高いことが明らかになった。今後の研究においては,中学生以上のより低年齢の患者を対象とし,微弱な陽性症状のみならず,陰性症状にも着目してAPSの発症の契機や症状の形成過程を探っていく必要性がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
過去4年間に研究代表者の所属機関の異動,及び共同研究者の他機関への転出等により,研究実施体制に頻繁な変更が生じた。そのため,研究計画の軽微な変更を含め,合計4つの研究機関に計7回の倫理審査の申請をする必要性が生じ,研究時間の大部分を倫理審査の申請書類の作成に費やすことになってしまった。 さらに,共同研究施設の運営責任者の他病院への転出により,当初予定していた大学病院精神科における研究対象者のリクルートが不可能になった。また,データ取得先の共同研究施設を新たに増やしたものの,移動に数時間かかる上,大学の業務の合間を縫ってデータ取得を実施せざるを得ないことから,多くのデータ取得は不可能であった。 上記のような理由に加え,新型コロナウィルス感染拡大防止のため,データ取得を控えざるを得ない期間が約3年間続いた。そのため,当初の計画通りにデータを取得することができず,研究計画に遅れが生じることになった。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究費も既に残り少なくなってきていることから,新規データの取得は控え,既存のデータを多角的観点から解析し,研究成果の公表に傾注する。また,新たな外部資金の獲得を目指し,本研究課題を継続して推進可能にする。 具体的には,APSの診断・評価スケールであるSIPS/SOPSが実施に膨大な時間を要し,日常臨床場面における有用性が低いため,短縮版を作成する。また,SIPS/SOPS上の変数と,R-PAS上の変数との相関を探り,R-PASをAPSのアセスメントに用いることの増分妥当性を検討していく。さらに,これまでの研究から,より低年齢でのAPS発症例が多いことが明らかになったため,今後は中学生以上の患者を主な対象として研究を実施していく。
|
Causes of Carryover |
参加を予定していた国際学会の開催国の新型コロナウイルス感染症危険レベルが当時,2以上であり,大学の規定により現地参加が叶わず,オンライン発表に変更したため,渡航費・宿泊費分の余剰金が生じた。一方,研究代表者の所属機関の異動により,データ取得のための旅費が当初の予定よりも大幅に増大したため,次年度に回す使用額は小さくなった。次年度の使用計画としては,研究成果の英語論文の校閲費用等に充てる予定である。
|
Research Products
(4 results)