2020 Fiscal Year Research-status Report
リフティングを用いた保型表現の分類・構成についての研究
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19K14494
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
跡部 発 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (50837284)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 既約表現の微分 / Aubert双対 / 局所A-パケット |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度には、「p進古典群の表現の微分の計算アルゴリズム」、「Aubert双対の計算アルゴリズム」、及び、「局所A-パケットの新しい構成法の確立」に取り組んだ。 p進古典群の表現論における重要な操作として、Jacquet加群を取るというものがある。緩増加な既約表現のJacquet加群は前回の研究で明示公式が得られたが、それは複雑であり、応用には適さない。表現の微分とは、Jacquet加群の部分的な情報である。多くの場合、既約表現の微分はまた既約になり、微分を取るという操作は単射になる。既約表現の微分を計算するためのアルゴリズムはJantzenにより提案されていたが、一部が不完全であった。2020年度の最初の成果として、この不完全な部分を解決した。それにより、微分の計算アルゴリズムが完成した。 次の成果として、既約表現のAubert双対を計算するためのアルゴリズムを開発した。これはウィーン大学のMinguez氏との共同研究である。Aubert双対とは、既約表現の間の対合であり、行列係数の増大度を入れ替えるものである。また、この双対はユニタリ性を保つと予想されており、故に、Aubert双対が計算できることは、ユニタリ双対問題へ応用があると期待できる。 最後に、局所A-パケットの新しい構成法を確立した。局所A-パケットとは2乗可積分保型表現の局所成分を分類する集合であり、それを知ることには、保型形式の空間の次元の計算や保型表現のリフティングの存在性など、多くの応用がある。今回の新しい構成法により、局所A-パケットの内部構造が明示的に計算できるようになった。またこの計算法を数値計算するプログラムを組むことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
緩増加表現のJacquet加群を計算することは以前の研究で出来ていたが、これを一般の既約表現に拡張することは難しい。最初の成果により、Jacquet加群の中でどの情報を取れば良いのかが明確になり、その情報である微分を計算できるようになった。これは当初の計画にはない予期していなかった成果である。 Aubert双対を計算することは、この概念が現れて以来、20年以上の未解決な問題であった。この問題を解決するために導入した、既約表現の新しい微分の概念は、当初は想定すらしていなかったものである。また、それは次の成果の重要な部分で役に立つ概念であった。 2020年度の最後の成果である「局所A-パケットの新しい構成法の確立」は良い意味で期待を裏切るものであった。当初の計画でも、この成果は応用上で必要になると考えていたが、1年以上の時間がかかると想定していた。また、当初では、今までに知られていた構成法をより詳しく調べることを考えており、これには組合せ論的に複雑な結論になるだろうと想定していた。しかしながら、発想を転換することにより、かなり単純な対象により、局所A-パケットがパラメトライズされることが分かった。このパラメトライズではあらゆる計算が可能であり、特に、数値計算ソフトウェアSAGEにおいて、数値計算するプログラムを書くことができた。今回の成果は。今後多くの研究で応用されるに違いない。これをもって、本研究課題が当初の計画以上に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今回の局所A-パケットの新しい構成法は、保型表現の分類の核心に当たる部分である。保型表現は一般に無限に存在するが、「レベル」と「重さ」という不変量が与えられたものであるとき、そのような保型表現は有限個しかないことが知られている。次の目標は、保型表現のレベルを局所A-パケットの言葉で書き下すことである。しかしながら、レベルという概念は、局所的な表現論においてはほとんど理論が整備されていない。例えば、一般線型群においては、レベルの理論があるのは緩増加な表現までである。一方でリフティングにより得られる保型表現の多くは緩増加ではないので、緩増加から外れる表現におけるレベルの理論を整備することが必要となる。従って次の研究として、一般線型群におけるレベルの理論を、緩増加でない表現に拡張することである。緩増加である場合には、レベルの理論は、Rankin-Selberg法と呼ばれるL-関数の積分表示の理論の応用であるため、先にRankin-Selberg法を緩増加でない場合に拡張する。これは近年証明された一般線型群の緩増加でない表現に対する局所Gan-Gross-Prasad予想と関わっているなど、最先端の研究となる。 本研究の主な興味は、古典群の保型表現論であるため、古典群に対するレベルの理論も確立したい。一般線型群の場合を模倣するのであれば、古典群の緩増加でない局所Gan-Gross-Prasad予想が必要になると考えられるが、その場合には、この予想にも挑戦するつもりである。これには、今回の局所A-パケットの新しい構成法が役立つと期待できる。また、基本補題と呼ばれる重要な結果の類似があれば、一般線型群のレベルの理論を古典群の場合に移植することができると考えられる。このために、基本補題の類似にも挑戦したい。
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Causes of Carryover |
前年度はコロナの影響により、出張ができなかったため、次年度使用額が生じた。特に予定していた海外での研究集会が中止となったため、数十万の次年度使用額となった。 本年度は昨年度の様子から、どの時期であれば出張ができそうかの目処が立っている。その時期に昨年度分も含めて、出張に行き、国内研究者との打ち合わせを行うつもりである。また、逆に多くの研究者を招聘し、最先端の研究についての情報収拾を行うつもりである。その時に必要であれば、謝金を支払うことも検討している。 昨年度はコロナの影響で在宅勤務が増えた分、コンピュータや電子ノートを酷使したようで、パフォーマンスの低下が目立つようになってきている。そのため、これらの電子機器を買い換えることも検討している。
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