2021 Fiscal Year Research-status Report
リフティングを用いた保型表現の分類・構成についての研究
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19K14494
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
跡部 発 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (50837284)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | Harder予想 / Arthur型表現 / 新形式 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度には、「Harder予想」、「ある誘導表現のsocle」、「一般線型群の表現の新形式」、「古典群におけるArthur型の表現の決定」について取り組んだ。 Harder予想とは、Ramanujanの合同式の一般化として、次数2のモジュラー形式のHecke固有値に関する合同を予想するものである。これについて、室蘭工業大学の桂田氏を筆頭とする研究グループに参加し、主に保型形式のリフティングに関連する箇所を執筆した。 昨年度には、Arthur型の表現の新しい分類法を確立した。これらは、古典群のユニタリ表現全体のうち、重要な部分を占めていると予想されている。Arthur型でないユニタリ表現は補系列表現と呼ばれ、ある既約な誘導表現になると考えられている。補系列表現の分類の第一歩として、極大放物型部分群のArthur型の表現から誘導される表現のsocle(極大半単純部分表現)について調べた。これにより、この誘導表現の既約性を判定することができるようになった。また、昨年度の分類法をよく調べることにより、既約表現が与えられた時に、それがArthur型であるかどうかを判定するアルゴリズムを確立した。 さらに、北海道大学の安田氏らと共に、一般線型群の表現の新形式についての研究を行った。新形式とは、表現の最も代表的なベクトルであり、その存在と一意性は保型形式を分類する上で重要となると考えられている。表現が生成的という条件を満たす場合には、新形式の理論はいくつか知られていた。本研究では一般線型群について、生成的でない場合も含めて任意の表現に一般化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
保型形式を分類し、次元公式を得るためには、保型表現との関係性を見ることが重要である。ところが一般には保型表現が無限次元であるため、この関係性から直ちに次元公式を導くことはできない。保型表現が不分岐である場合には、不分岐ベクトルの一意性から、保型形式との関係性が明確になり、次元公式が得られる。この現象を一般化するのが新形式の理論である。そのため、新形式の理論を整備することが急務であると考えてきた。 今年度は北海道大学の安田氏らと共に、一般線型群の局所新形式の理論を展開した。一般線型群の表現が生成的である場合には新形式の理論は知られていたが、そうでない場合の研究は世界初である。また、今回の研究で得られた知識・技術は、今後の古典群に関する局所新形式の理論、及び、その後の保型形式・保型表現の分類に大きく役立つと期待できる。 昨年度には古典群におけるArthur型の表現の明示的に分類した。その応用として、今年度には、極大放物型部分群のArthur型の表現からの誘導表現のsocleの計算アルゴリズム、及び、与えられた既約表現がArthur型であるかどうかを判定するアルゴリズムを確立した。これは保型形式・保型表現の分類に役立つだけでなく、局所的な表現がユニタリ表現であるかどうかを求める問題(ユニタリ双対問題)に大きく寄与すると考えられる。 また、保型表現のリフティングの応用として、モジュラー形式のHecke固有値の合同に関するHarder予想の一部の解決に貢献することができた。さらにこの研究を推し進めることで、Harder予想の完全解決も期待できるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究として、「古典群に関する局所新形式の理論の整備」、「レベル付き保型形式の分類」、「Harder予想の完全解決」について取り組むつもりである。 古典群のレベル付きの保型形式を分類するためには、Arthur型の表現の分類・決定の他に、古典群に関する局所新形式の理論を整備する必要がある。これは奇数次特殊直交群を除いてほとんど研究がない状況である。さらに、古典群の場合には一般線型群の場合の議論もほぼ使えないことがわかっている。解決策として、基本補題と呼ばれる重要かつ難解な定理を、様々なコンパクト群に一般化することを考えている。古典群としてユニタリ群を取る場合には、この基本補題は比較的難しくないようであり、熟考の余地があるといえる。 局所新形式の理論が整備された後は、古典群のレベル付きの保型型式を分類に取り組むことができるであろう。そのためにまずは、局所新形式の理論とArthur型の表現の分類を組み合わせる必要がある。その後にChenevier-Lannesによる不分岐保型形式の分類を模倣する予定である。そこでは良い評価関数が必要であるが、これは数値計算を用いて見つけてくるつもりである。 Harder予想の一部については、保型表現のリフティングの応用として得られたが、それは完全解決には程遠いものであった。今後はさらにGalois表現などの別の高度な道具を駆使することで、より多くの場合のHarder予想を解決することを目指す。また、レベル付きの保型形式の分類理論も役に立つかもしれない。
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Causes of Carryover |
前年度はコロナの影響により、出張ができなかったため、次年度使用額が生じた。特に予定していた海外での研究集会が中止となったため、数十万円の次年度使用額となった。 本年度は現地開催される研究集会には、国内外問わず積極的に参加するつもりである。また、時間を見つけては、国内研究者との打ち合わせのために他大学へ出張することを予定している。逆に多くの研究者を招聘し、最先端の研究についての情報収拾を行うことも検討している。
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Remarks |
局所A-パケットに関するSageコードを公開した。
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