2020 Fiscal Year Research-status Report
非有界係数を持つ経路依存型・非衝突型の確率微分方程式の数値解析と密度関数の研究
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19K14552
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
田口 大 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (70804657)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | Monte Carlo法 / Multilevel Monte Carlo法 / Euler-Maruyama近似 / 後退確率Volterra積分方程式 / 非衝突確率過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は, 非有界な係数を持つ(経路依存型) 確率微分方程式と非衝突確率過程の「数値計算方法の構成と誤差評価」と「密度関数の解析」を研究するこ とである。2020年度は、以下の2点について研究成果を得ている:①数理ファイナンスなどで現れる非滑らかなテスト関数に対する確率微分方程式の数値解析とMultilevel Monte Carlo methodへの応用(Avikainenの不等式の多次元への拡張)。②後退確率Volterra積分方程式に関する離散近似。 ①について:田中章博氏(三井住友銀行/大阪大学)と湯浅智意氏(立命館大学)との共同研究である。これまでAvikainenの不等式は1次元の場合にのみ証明されていた。その理由は、主にSkorokhodの表現定理を用いた確率変数の表現が、1次元の場合にのみ具体的に可能であるという点から来ている。本研究では、その代わりに実解析等で用いられているハーディ-リトルウッドの極大関数とHajlaszによって証明されたソボレフ空間の特徴づけを用いて、多次元の場合にまで拡張を行った。これにより多次元の確率過程が滑らかな領域に滞在する確率をMultilevel Monte Carlo methodを用いて効率的に数値計算することが可能となる。本研究結果は、IMA Journal of Numerical Analysisで出版されている。 ②について:濱口 雄史氏 (大阪大学)との共同研究である。通常の後退確率微分方程式に関する離散近似は広く研究されていたが、その一般化である後退確率Volterra積分方程式の離散近似手法は特別な場合のみ考えられてきた。本研究では、一般のリプシッツ条件の元で離散近似手法を導入し、その精密な誤差評価を与えた。本研究の結果は、学術雑誌に投稿済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画以上に進展している。非衝突確率過程の数値解析に関する研究については、Hoang-Long Ngo氏(Hanoi National University of Education)との共同研究中であり、より一般的な確率過程であるRadial Dunkl processに対する離散近似手法を導入し、その精密な誤差評価を得ることができている。これまで考えていた数値計算手法では、制限付き多元連立多項式の数値計算が必要な方法であり、この点が非衝突確率過程の数値計算が難しい理由の一つであった。しかしながら、これまでの手法に代わる非衝突確率過程に対する新しい離散近似手法に関する重要なアイデアがまとまりつつあり、2021年度の段階で、論文を執筆する見通しがついている。これにより、これまで実装することができなかった、非衝突確率過程の数値解析を実際に行うことができるようになると期待できる。 また、研究開始当初、想定していなかった後退確率Volterra積分方程式の離散近似に関する研究結果を得たことが挙げられる。これにより、確率制御問題や数理ファイナンスなどの様々な分野でこれまで実装できなかった数値解析が可能になると期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度に得たAvikainenの不等式の多次元化は数理ファイナンスの分野や後退確率微分方程式の数値計算にも応用されている不等式であるが、本研究によって、1次元という強い制約をなくすことができたため、今後様々な方向に発展が期待できることになった。例えば、数理ファイナンスの分野で広く研究されているバリュー・アット・リスク(資産価値の損失リスクを推定した値)の数値計算を高次元の場合にも応用することが期待できる。研究を行ったAvikainenの不等式を適用するためには、確率微分方程式の解の密度関数が有界であるという条件が必要になる。しかし、現在研究を行っ ている確率過程に対しては、密度関数の存在と有界性を保証する結果はあまり知られていない。そこで、(多次元の)Avikainenの不等式を密度関数の有界性を用いない形(例えば、L^{p}-可積分性など)で証明できないか研究中である。さらに、密度関数の可積分性やregularityとAvikainenの不等式の関係についても研究中である。 また、Besov空間論を用いた研究手法が有用であると考えている。近年、Romito氏によって導入されたone-step Euler-Maruyama近似を用いた方法によって、適当な条件を満たせば、確率微分方程式の解に密度関数が存在し、さらにあるBesov空間に属することが知られている。この方法は非常に適用範囲の広い方法であるため、この手法を非有界な係数を持つ(経路依存型) 確率微分方程式と非衝突確率過程に適用し、密度関数の可積分性やregularityを研究できると考えている。
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの影響等で、研究集会が延期が重なり、次年度に繰り越すことになった。
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