2019 Fiscal Year Research-status Report
Mathematical analysis and epidemiological application of structured epidemic models
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19K14594
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
國谷 紀良 神戸大学, システム情報学研究科, 講師 (60713013)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 感染症モデル / 基本再生産数 / 年齢構造 / 空間構造 / 安定性 |
Outline of Annual Research Achievements |
集団における感染症の流行を表す数理モデルのうち,年齢や位置などの各個体の異質性を考慮できる構造化感染症モデルに焦点を置き,感染症の流行強度を表す指標である基本再生産数 Ro の観点から,モデルの数学的性質の解析を行った.具体的に,年齢構造をもつ多状態のヘロイン流行に関するモデル,年齢構造をもつSIR感染症モデルおよびSIRS感染症モデル,感染年齢と空間構造をもつSIR感染症モデル,コレラの流行に関する反応拡散系のモデルの解析を行った.解析では,次世代作用素のスペクトル半径で定義される基本再生産数 Ro の数学的導出を行い,Ro < 1 ならば感染症の根絶を意味する disease-free な自明定常解が安定となり,Ro > 1 ならば感染症の定着を意味するエンデミックな定常解が安定となるか,という問題に取り組んだ.特に,年齢構造をもつSIR感染症モデルにおいては,Ro > 1 であってもエンデミックな定常解が安定とはならず,ホップ分岐により持続的な周期解が現れる状況が起こりうる例を新たに発見したが,この結果は季節によらない感染症の再帰的な流行現象を説明する上で,集団の年齢構造が重要な役割を担う可能性を示唆するものであった.その他,造血幹細胞の増殖に関する数理モデルの解析を行った.また,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の国内における2月末までの流行データをもとに,緊急事態宣言による活動自粛などの効果が現れる前の基本再生産数 Ro の推定および流行予測を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複数の手法や新たなアイデアを用いて,様々な構造をもつ偏微分方程式系として記述される数理モデルの解析を行い,安定性に関する結果を得ることが出来たため.特に,基本再生産数 Ro が 1 より大きい場合のエンデミックな定常解の安定性は,年齢構造をもつSIR感染症モデルの場合,1980年代後半以降完全解決のなされていない問題として提唱されているが,パラメータが特別な条件を満たす場合に,Ro > 1 であってもエンデミックな定常解が不安定となる新たな解析結果を得ることが出来,問題の解決に貢献出来たと考えられるため.さらに,抽象理論のみでなく,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の国内における流行データをもとに,基本再生産数 Ro の推定と流行予測を行い,モデルの疫学的応用の観点からも貢献出来たと考えられるため.
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Strategy for Future Research Activity |
抽象理論を構築する観点では,引き続き年齢構造や空間構造をもつ偏微分方程式系として記述される感染症数理モデルの解析を行い,完全解決のなされていない諸問題に取り組みながら,統一的な理論の構築を目指す.また,モデルの応用の観点では,2020年5月現在,世界的な流行を続けている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を対象に,実データを用いて,疫学的パラメータの推定,流行動態の予測,活動自粛やPCR検査といった防疫策の効果の検証などを行う.
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Causes of Carryover |
当初の予定よりも物品費が少なく済んだため.2020年度は新型コロナウイルス感染症の関係で出張旅費が少なくなると考えられるため,その分の費用を論文のオープンアクセス化に充てる.
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