2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K14615
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
白石 直人 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (30835179)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 非平衡統計力学 / ゆらぐ系の熱力学 / 揺動応答関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は、ゆらぐ系の熱力学の観点からの研究およびその成果をまとめることに注力した。 特に、カレントのゆらぎと応答について理解を深めるような研究を推進した。揺動応答関係はカレントのゆらぎと応答を結び付ける関係式として古くから知られている。カレントは時間反転反対称な量であるが、私は時間反転対称なカレント的な量を導入し、それがカレントの場合と同様な揺動応答関係を満たすことを発見した。時間反転対称な量は非平衡定常状態の物理において重要だと期待されている量である。今回導入された時間反転対称なカレントは、現時点ではその意味が完全に明らかにされているわけではないが、揺動応答関係を満たすという事実はその物理的な妥当性を支持する関係式である。 私はさらに、この時間反転対称なカレントが、平衡状態近傍のみならず、非平衡定常状態近傍でも揺動応答関係を満たすことを示すことに成功した。非平衡定常状態において普遍的に成り立つ関係式の模索は、この分野において熱心に行われているが、物理的に明快な形の関係式はほとんど得られていない。今回の結果は、時間反転対称なカレントがその正当性を認められるならば、物理的な意義が明確な非平衡定常状態周りの普遍的な関係式となり、意義は大きいと考えている。 また、ゆらぐ系の熱力学に関する研究は今年度以前にも多数の成果を出しているが、それらを含めたゆらぐ系の熱力学の教科書を執筆した。今年度時点で原稿は出版社に入稿し、その教科書は2023年5月に出版された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は昨年度までで想定以上に進展していたため、本年度はこれまでの研究をそのまま進展させていくとともに、成果をより広く発信することに注力した。具体的には、教科書の形で成果を残すことにし、その執筆を進めた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度はゆらぐ系の熱力学の研究進展と発信に注力したため、孤立した量子系の熱平衡化、及びランダムに相互作用するスピングラス系については、昨年度までに得られていた想定通りの研究進展にとどまり、それより先の研究進展があまり見られなかった。来年度は、ゆらぐ系の熱力学の研究を進めるとともに、残りの二つの分野についてもさらなる進展を試みる
|
Causes of Carryover |
2022年度は、新型コロナは沈静化に向かいつつあったものの、まだ不自由なく海外出張を行い、海外の研究者向けに予定通りに成果発信や議論を行える状況ではなかったため、今年度までに行う予定だった出張等の経費を次年度に持ち越すこととなった。
|
Research Products
(4 results)